2018年9月1日土曜日

フランス修道院宿泊ガイド:ル・バルー聖マドレーヌ大修道院滞在の記録 その1(2018/07/25-27)

[ル・バルー聖マドレーヌ大修道院。修道院Webページより]

1.なぜ修道院泊をしようと思ったのか

2018/07/25から27までの二泊三日、南フランスのル・バルー村にあるベネディクト会修道院、聖マドレーヌ大修道院に滞在した。アヴィニョンから北東に40キロほどの場所にあるこの修道院ではラテン語による典礼が行われている。

中世フランス演劇研究をしている私は、「典礼劇」と呼ばれるカトリック典礼の枠組みのなかあるいはその周辺で聖職者たちによって演じられていた対話体の音楽劇に関心があった。
しかし「典礼の枠組み」と言っても、キリスト者でない私には典礼がどのようなものなのかよくわからない。ミサの式次第さえわかっていないのに、中世の典礼劇の研究するのも何かなあと思い、信者の友人の導きでラテン語でトリエント公会議で決められたやり方に沿ってミサを執り行っている聖ピオ十世会のミサに何回か出てみたりした。東京カテドラルで年に一度行われる荘厳ミサにも行ったし、フランスに行ったときは都合が合えばラテン語でミサが行われる教会に行ったりもした。
ミサについてはラテン語で行われているものに接する機会はあるのだけれど、日々の祈りである聖務日課については修道院に行かないとその様子はわからない。
今、行われているミサや聖務日課は、ラテン語で行われ、グレゴリオ聖歌が歌われていると言ってもその手順は16世紀後半のトレント公会議で定められたものに基づくもので、私が研究対象としている中世の時代の典礼とはかなり異なるのだけれど、それでもそこから中世に典礼劇が教会で上演されていた状況ぐらいは想像できるかようになるかもしれない。そうした体験があることは、テクスト読解のときに想像力を膨らます上で重要であるように私は思ったのだ。

カトリックの信者の友人から修道院泊について聞いた私は、自分もラテン語で典礼が行われている修道院に滞在して、聖務日課に立ち会いたいと思うようになった。
[ル・バルー聖マドレーヌ修道院の教会。撮影:片山幹生]

2.修道院宿泊の手順

1960年代までカトリックの典礼はトリエント公会議で決められた手順に従い世界のどの教会でもラテン語で行われていたが、第二バチカン会議以降、自国語での典礼が認められて移行、ほとんどの教会はラテン語での典礼をやめ、自国語での典礼を行うようになった。聖歌も中世以来伝えられてきたグレゴリオ聖歌ではなく、自国語の歌詞の新しく作曲された聖歌に置き換わっている。

日本の宿坊のようなかんじで外来者の宿泊を受け付けている修道院は多い。ただラテン語で典礼を行っている修道院はそんな多くはない。ラテン語で典礼というとパリとナントのほぼ中間地点にあるソレム大修道院は19世紀におけるグレゴリオ聖歌復興で名高く、外来者の宿泊も受け付けているが、今回の渡仏はアヴィニョン演劇祭エクサンプロヴァンス音楽祭という南仏で行われる二つのフェスティヴァル訪問が予定に入っていたので、そこからわざわざソレムまで足を伸ばすはルートとしては無駄が多いように思った。

修道院宿泊はフランスではかなりポピュラーな観光(と言うのが適切かどうかわからないが)らしく、ネットで検索してみると滞在可能な修道院を検索できるページがあった。そこで出てきた修道院の情報を見てみると、アヴィニョン近郊でラテン語で典礼を行っているル・バルー聖マドレーヌ大修道院を見つけた。ちなみに外部者の修道院滞在をフランス語ではretraite spirituelleという。直訳すると「霊的な隠遁」ということになるだろうか。仏和辞典では「静修」という訳語が当てられていた。
修道院ページに「滞在」séjourというタブがあり、そこから「個人の滞在」retraites individuellesに入る。宿泊の予約は電話、FAX、メール、あるいはこのページにリンクが張ってあるフォームへ記載することでできる。フォームに氏名や到着日など必要事項を記入して送信すると、まもなく修道院の宿泊担当修道士から了解の返事が届いた。私が予約を入れたのは滞在のほぼ一ヶ月間、6/20だった。この時点では交通手段を調べていなかったので到着時間がいつごろになるかわからなかった。修道院からは「できれば扉が閉まる17時までに到着して欲しい」とあった。

3.修道院へのアクセス

7/19(木)から7/23(月)までアヴィニョンに滞在し、7/23(月)から7/25(水)までエクサンプロヴァンスに2泊した。エクサンプロヴァサンスから修道院のある村ル・バルーに行くには、またアヴィニョンに戻らなければならない。交通経路を調べて、修道院には宿泊前日にメールで25日(水)の午後2時半頃に到着すると伝えておいた。
エクサンプロヴァンスからアヴィニョンまでは90キロぐらいの距離がある。この2都市間の移動は長距離バスが安くて便利だ。時間は90分ぐらいで、運賃は18€だ。バス車両は新しくて快適だし、空いていた。アヴィニョン中央駅からカルパントラ Carpentras 行きのローカル鉄道に乗ると、30分ほどでカルパントラに到着する。ローカル線の車両も新しくてきれいだ。

[カルパントラ駅行きの列車の車内で自撮り]
[カルパントラ駅のホーム。ここがこの路線の終着駅]

カルパントラから修道院のあるル・バルー村までは15キロあるが、タクシーを使うしかない。13時半にカルパントラ駅に到着したが、修道院の受付は14時半以降なのですぐに行っても仕方ない。カルパントラの町の中心は駅からだいぶ離れた場所にあり、駅の周辺はガランとしている。駅から歩いて15分ほどのところにあるマクドナルドに入り、昼飯を取った。修道院のウェブページにカルパントラのタクシーの電話番号がいくつか載っていたので、その一番上にある名前にマクドナルドから電話した。15分ほどでタクシーがマクドナルドまで迎えに来る。
タクシーで修道院までは20分ほどかかった。タクシー料金は35€(約4500円)。修道院はル・バルー村から2キロほど離れた山のなかにある。修道院の周囲は森とオリーブ畑、ぶどう畑が広がっている。修道院には14時半に到着すると伝えていたが、15時過ぎになった。

[ル・バルー聖マドレーヌ大修道院外観]

修道院の宿泊受付は11時〜12時、14時半〜17時のあいだだ。宿泊担当の修道士が案内してくれる。

4.修道院にチェックイン

修道院には男性しか宿泊することができない。男性なら私のように信者でなくても受け入れてくれる。修道院の建物のなかは三つの領域に分けられていて、女性や宿泊者(静修のために来た者)でなくても入ることのできるエリア(修道院内の教会の身廊も含む)、修道士と宿泊者しか入ることができないエリア、修道士しか入ることのできないエリアの三つである。
私が到着したときにはガールスカウトの少女たちが数名と静修のために来たフランスからやってきた青年が一人、修道院受付にいた。彼らは自由に立ち入るところのエリアまで、私と一緒に着いてきた。静修者ための食堂まで女性も入ることができる。

[宿泊者が朝食を取る食堂。おやつの時間もここで]

部屋の扉にかける私の名札を準備するのでしばらく食堂で待っておくようにと修道士に言われ、その間に青年と食堂で話をした。彼はこのあたりの出身で子供の頃はしばしばこの修道院に来ていたそうだ。今は北フランスに住んでいる。職業は船員とのこと。ハンサムでさわやかな青年だった。この修道院には、村を離れたあとも、一年か二年に一度やって来て過ごすのだと言う。滞在日数は三泊とのこと。私は何泊滞在するか迷ったが、他の静修者に聞いたところ、二三泊が多いようだ。
静修に来るのは修道士と一般の信徒。若い人が案外多い。私の滞在中は老人はいなかった。この食堂には来たいときにいつでも来ていいそうだ。朝食の時間帯にはパンや飲み物、ジャムなど、お菓子の時間帯にはクッキーやチョコ、飲み物が置いてあるので、自分で取って飲み食いしていいとのこと。使った食器は各自が洗い、食器棚に戻しておく。
修道士は朝食は取らないので、朝食は静修宿泊者が6時〜8時半の間にやってきて、自由に取る。ただし食事中は会話をすることは禁止である。昼食と夕食は修道士たちと、修道院の奥にある別の食堂で取る。
基本的に修道院は沈黙の場所なので、他の人たちと大声でおしゃべりしたりはしない。おかし時間は食堂で他の静修者と会話可能だが、小さい声でぼそぼそとしゃべる感じだ。

宿泊担当の修道士が戻ってきた。部屋の鍵と私の名前が書いたカードを持っている。食事や祈りの時間など滞在にあたってのごく簡単な注意があった。私の部屋は二階だった。静修者の部屋はすべて個室だ。30部屋ぐらいあるようだが、私が泊まった初日はほぼ満室だった。一ヶ月前に予約しておいてよかった。シャワー、トイレは共用で、20時以降、朝の6時まではシャワーを浴びることはできない。

[部屋の扉に付けられた名札。私は聖ヤコブの部屋]

[部屋の内部]

部屋の広さは8畳ほどか。ベッドと机と衣装ロッカー、洗面台があった。簡素だが室内は清潔だ。エアコンはついていない。部屋の窓は回廊のある中庭に面している。静修中は基本的には教会で日々の祈り、聖務日課やミサに出るか、飯を食うか、そうでなければこの部屋に引きこもって静かに過ごすことになる。携帯電話の電波は弱くて不安定。修道院内のwifiは使える。ただしこのwifiは夜8時以降は朝まで電源が切られてしまう。
宿泊の費用だが、これが決まっていないのだ。修道士のほうからお布施を要求されることはない。三食付個室で、ミサと聖務日課も参席できるとなれば、それなりのお布施を置かなければ申し訳ないような気がする。
宿泊者謝礼としてのお布施は、宿泊担当修道士か門番修道士に直接渡すかそうでなければ宿泊棟の郵便受けに入れておけばいいとのこと。渡すときに修道士に「相場」みたいなものを聞こうかと思ったが、私がチェックアウトする時間帯には修道院受付はまだ開いていない。金額は迷ったが一泊あたり40€、二日で80€を封筒に入れて、郵便受けに投函した。
宿泊者はチェックアウト時に次の人のために、部屋を掃除し、ベッドのシーツを替えるルールになっていた。

[修道院内の応接室のようなところ。ここには誰でも入ることができる]

修道院というと古い石造りの建物をイメージする人がいると思うが、このル・バルー聖マドレーヌ修道院の建物は1980年代の終わりに建てられたもので新しい。建物内外とも清潔だ。


0 件のコメント:

コメントを投稿