2014年7月14日月曜日

アヴィニョン演劇祭でのSPAC:7/12(土)教皇庁前広場での特別公演のレポート

 演劇、映画、文学、音楽、美術展など幅広い文化イベントを紹介するフランスのWebzineRick&Pick》に、7/12(土)のアヴィニョン演劇祭でSPACが行った無料パフォーマンスの記事が掲載されました。

 記事執筆者のリック・パヌジーさんに許可を頂き、その全文の訳を下に公開します。この無料公演は、アヴィニョン演劇祭の舞台関係労働者のストライキのため、予定されていた『マハーバーラタ』が中止になった日に、特別に行われたものです。
 元の記事にあった写真に加え、現地でこのパフォーマンスをご覧になった演劇評論家の長谷部浩氏から提供して頂いた写真を数点加えました。長谷部さん、どうもありがとうございました。

 J'exprime mes remerciements sincères au site Web Rick et Pick de m'avoir bien permis de publier une traduction de l'article sur la représentation spéciale du SPAC à Avignon.

[アヴィニョン演劇祭]路上の『マハーバーラタ』─異議と共感



  公演はブルボン石切場という壮大な環境のなかで行われるはずだった。宮城の『マハーバーラタ』は、演劇祭のはじめころ、悪天候のため、一度公演が中止された。
 そして7/12(土)に二度目の公演中止。アヴィニョン演劇祭の《イン》部門のスタッフが、前日、7/11(金)に全日ストライキを行ったためである。ストライキは、政府とMEDEF(訳注:フランス企業運動、日本の経団連に相当)が署名した失業補償制度改定についての協定への抗議活動として行われた。ストライキの実施を巡って投票が行われ、投票率は46%(622人中286が投票)と高くなかったが、65%の賛成票を得て、ストライキは実施された。

ストライキの決定にも関わらず、公に公演を行う決定をしたことについて、SPACは文書で説明を行った[訳注:この文書の内容はSPACのウェブページで確認することができる]。

 この日、公演の大半は、とりわけ技術スタッフが抗議行動のためにストライキを支持したため、中止になった。中止が決まった公演の一つに、日本からやって来た宮城聰と彼が指揮するカンパニー、SPAC(静岡舞台芸術センター)による新しいバージョンの『マハーバーラタ』が含まれていた。同じ演劇祭で三十年前にピーター・ブルックがこの神話的叙事詩を上演した三十年後に、日本人芸術家は、歌舞伎や文楽といった日本文化のなかにインドの伝説を移し替えた。
photo by 長谷部浩

 『マハーバーラタ』の上演チームはストライキの状況を引き受けた上で、自分たちには公演を中止するという文化はないと表明した。大きな張り紙には、カンパニーは自分たちと演劇芸術の関係、そしてストライキが決定されたにもかかわらず、なぜ彼らが公演の抜粋版を無料で、プチ・パレ(小教皇庁)の正面にある教皇庁広場で上演することを決断したかが説明されていた。


photo @fabien_h
 《イン》部門に参加するカンパニーが、町の広場で、観光客やフェスティヴァル参加者などあらゆる観客のために無料公演を行うことは、滅多にないことだということを強調しておいたほうがいいだろう。音響設備が使えないため、音は聞き取りにくかった。照明もない。壮大なブルボン石切場という舞台が、町中の噴水広場に移し替えられる。しかしこうした制限は障害にはならなかった。SPACの俳優たちは、自分たちの芸術と観客たちへの愛と敬意のこもった力強いパフォーマンスを見せてくれたのだ。即興的に行われた公演に、観客たちは魅了され、驚愕し、そして魔法の時間に心奪われた。宮城のことも、《イン》の公演も知らない通りがかりの人たちが立ち止まり、「これは何なのですか?」と質問する。しばらく迷ったあとで、立ち止まってスペクタクルを見物する人たちがいた。
photo @jbao_desnoix

  多くの人たちが互いに声を掛け合った。フェスティヴァルのただなかに、演劇文化の共有の場が立ち現れた。社会運動による騒乱のなかから、予想外の幸福な時間が現れた。そこでは、演劇人と観客とのあいだに、《イン》の観客と一般の観光客とのあいだに共感の共同体が生まれたのだ。
photo by 長谷部浩

 宮城聰は、広場の端で、観客に交じって自分のカンパニーの様子を見つめていた。観客たちは動画や写真を撮影しながら、場面が終わるたびに大きな喝采を送っていた。「公式の」公演では禁じられていることが、ここでは許されていた。それはフェスティヴァルの最中に出現した宙吊りの時間だった。
photo by 長谷部浩
 
photo @camilleCourt

 観客たちは熱烈な喝采でSPACを讃えた。この自発的で、献身的で、情熱的なパフォーマンスは、ストライキを行うアンテルミタンたちの賛同のもと、決行された。アンテルミタンたちの運動に対し、SPAC(静岡舞台芸術センター)は最大の敬意を払っている。

リック・パヌジー


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