2024年3月1日金曜日

2024/2/29 ニース第13日

 今日は朝寝坊した。特に午前中にしなくてはならないことはない。昼前に学校に到着し、学校近くの食堂で昼飯を食べた。選んだメニューはロールキャベツ。Capoun à la Niçoise ou Feuilles de Chou Farcies という名前の料理。ニースの郷土料理だ。今日は滞在先の夕食でも同じメニューが出てきた。夕食時の会話で「昼飯、何を食べた?」と聞かれ、「同じものだ」、とは答えることができなかった。おいしさでは学食のものより、家主のAnnickの作ったもののほうがはるかに美味しかった。

午後はニースの隣町であるヴィルフランシュ・シュール・メールへの遠足のはずだった。ヴィルフランシュは、ニースからは鉄道で10分ほどで、小さい町なので、行き来の時間を考えても2時間半あれば十分の場所だ。13時50分ニース発の列車に乗るとAnimatriceのユヴァから連絡があった。しかし駅に着くと、13時50分の列車は突然運休になっていた。次の列車は14時20分である。30分という中途半端な時間、駅と駅周辺で時間を潰さざるをえなくなった。ところが14時20分の列車も運休になり、その後の列車の運行もどうなるかわからない。なぜ運休なのかはSNCFから特に説明はない。とにかく運休。帰宅後、家主のAnnickの話では地崩れがあったからではないかということだ。

結局、今日の遠足は中止で、駅で解散ということになった。学校主催の遠足が一回飛んでしまうことになったがしかたない。これがフランスだ。

私はニース旧市街でお土産物の買い物をすることにした。女子学生7名が私と一緒に旧市街に行った。男子学生5名はその後、どこで何をしていたのか知らない。

まずマセナ広場のそばにあるニースで一番まともな書店、Librairie Massenaに行って、30分ほど滞在する。そのあと旧市街にあるニースの文房具屋の老舗、ロンターニに。この店はgoogle mapが教えてくれた店で、私が入ったのはこれが初めてだった。渋めのクラシックな文房具と画材、地図、カードなどが売っている店だった。キリスト教の降誕祭のエピソードに関わるさまざまな人物や動物のフィギュアが大量に陳列されているのに興味をそそられた。私は何も買わなかったが、学生たちはけっこう長いあいだ店内に滞在して何かを購入していた。

チーズ屋、ワイン屋、チョコレート屋にその後、立ち寄るつもりだったが、チーズ屋の開店が午後4時からとなっていて何十分が待たなくてはならない。そこで旧市街にある17世紀の貴族の館、ラスカリス宮 に行くことにした。この建造物の一部は楽器博物館にもなっていて、古楽器が展示されている。以前、一回だけ行ったことがあった。私が信頼するフランス語のガイドブック、Le Guide Routardでは、ラスカリス宮の観光ポイントとしての評価はかなり高いものだったが、ニースの観光ポイントのなかではあまり知られていない場所だ。ラスカリス宮はPalais「宮殿」と名前はつけられているものの、建物の外観は地味で旧市街の他の建物と紛れており、入り口がわかりにくい。

ニース市立の美術館・博物館は、学生は無料だ。日本の大学の学生証を見せればなんとかなる。過去に一度だけ、日本の学生証を出すと、「中国で書かれたものを出されても、これが学生証かなんかわからない」と受付で言われたことがあったが。

ラスカリス宮に行く道の途中に、ジェジュ教会 Église de Gesù (GesùはJesus、イエスのこと)があったのでそこも見学した。この教会はラスカリス宮とほぼ同じ時代の建築で17世紀のバロック様式の装飾が特徴だ。金泥色の過剰で暑苦しい装飾で教会内が埋め尽くされ、それは先日見た古代ギリシャ風のヴィラ・ケリロスの美学とは対極にあるものだ。

ラスカリス宮の入り口の間口は5メートルほどで、palais「宮殿」にはほど遠いつつましさなのだが、17世紀半ばのバロック様式による内装の壮麗さには圧倒される。三階部分に17世紀の建築物が保存されているようで、漆喰の壁面や天井が浮彫やフレスコ画で埋め尽くされている。その保存状態のよさにも驚いたが、最近になって大規模な修復が行われたとのことだ。最初の所有者であるラスカリス伯爵が1802年にこの城館を売却したあと、荒廃していたそうだが、1942年にニース市が購入し、46年に歴史的建造物として認定された。

三階が楽器博物館になっていて、17世紀以降のさまざまな楽器が陳列されている。17世紀のギターやマンドリンが置いてある部屋を回っていると、そこにいった博物館のスタッフから日本語で声をかけられた。「そのギターはルイ14世の時代のものです」

あきらかに日本人ではない風貌の博物館スタッフに日本語で声をかけられたのでギョッとした。聞くと彼の妻が日本人で京都に住んでいるという。「東京にも知り合いがいます。たぶんその人のことをあなたも知っているはずです」と言うので、「東京には膨大な人が住んでいるのですから、私が知っている人だという可能性は極めて低いですよ」と答えたのだが、「いや、知っていると思います」と言う。彼はスマホにある写真を見せてくれた。日本人女性と一緒に写っている。確かにどこかで見たような顔であるように思う。

「ともみさんです。知っているでしょ?」と彼は言う。おおお、指揮者の西本智美ではないか!クラシック音楽に関心がある人なら彼女のことは知っているだろう。ラスカリス宮の三階、音楽博物館のセクションで働いている彼は、ニース在住の作曲家だった。György Gonda という名前だった。ハンガリー出身だと言う。といったことを彼と話しているうちに、学生たちもこの部屋に上ってきた。ニースに来る日本人観光客は多いとはいえ、このラスカリス宮を訪問する日本人は極めて稀に違いない。『スター・ウォーズ』などの映画音楽を手がけているジョン・ウィリアムズと一緒に撮った写真もあり、それで学生たちの信用も彼は得たようだ。彼の解説付きでラスカリス宮の三階部分をゆっくり見物することになった。

ラスカリス宮のあとは、旧市街のチーズ屋に寄ったが、ここはgoogle mapによれば老舗とのことだが、チーズの種類が「柔らかめ」のものに偏っていた。日本に持ち帰るのには真空パックにしてもらうとはいえ、輸送に強そうなもっと固めの別のチーズも見たい。私がニースでいつもお土産用のチーズを買う店は旧市街からは離れたところにあるので、今日はチーズ購入は諦めた。

そのあとやはりGuide Routardで紹介されていたワイン専門店 Les Grandes Caves Caprioglio に寄り、ニース名産のワイン、Belletのロゼをお土産用に買う。25ユーロぐらい。Belletワインは知る人ぞ知るという感じのワインらしいが、生産量がそんなに多くないため、日本にはほとんど出回っていないワインらしい。学生たちもお土産用ワインを購入していた。

ワインショップのあとは、ニースオペラ座の正面にあるお菓子の超有名店、オーエル Auerへ。1820年創業のこの店では、果物の砂糖漬け、チョコレート、ジャムなどを売っている。店の内装はこの店の伝統を感じさせるクラシックな雰囲気だ。天然素材を使い、手間暇をかけて作られた製品ばかりで、非常に美味しいのだけど、値段もかなり高い。私はお土産用にチョコレートの詰め合わせを購入した。

オーエルのあとは、そのすぐそばにあるオリーブ製品の超有名店、Alziari アルジアリへ。今日の午後はニースの定番的名店巡りになってしまった。アルジアリを出ると、午後6時前だった。学生たちと別れ、私は海を30分ぐらいぼーっと見てから、家に戻った。


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