2月12日(日)ケベック第2日
午前7時に起床。意外なことに時差ボケは克服できているように思える。カナダ滞在中は娘も一緒なので、午前中は特に用事がないことが多いのだが、夜更かしせず、朝ちゃんと起きる規則正しい生活をするようにしよう。今日は夕方にRIDEAU 2023のオープニング・パーティがある。パーティの前に参加登録のaccreditation 「認証」が必要とあった。午前中は近所のスーパーマーケットに行った。歩いて10分ぐらいのところに、道路沿いの3階建ての低層の建物に個人商店が並ぶ小さなショッピング・ストリートがあり、それなりの賑わいがあった。スーパーの品揃えは日本と大きく違いはないが、値段は全般的にかなり高め。日本より2割高という感じだ。野菜や果物はほぼ全てが輸入品だ。フランスのスーパーとの違いで気づいたのは、板チョコの棚が小さいこと。お菓子類もバリエーションが乏しい。店によってもちろん違いはあるのだろうが。ポテチ、飲料、生野菜などを購入した。
昼飯は滞在先で食べた。昨日のブーティンの残りと午前中にスーパーで買ったサラダ。RIDEAUの事務局でな登録認証が午後3時までなので、それに間に合うように家を出たが、家から10分ほどのところにあるバス停に着いたところで財布を忘れていたのに気づき、家に戻るはめに。結局、登録認証受付時間には間に合わなかった。RIDEAU参加は今回が初めてだが、そもそもこの種の演劇見本市への参加の経験がないのでどういう具合に参加するのかよく分からない。そもそもはプロデューサーや劇場主など興行に関わる人が想定された参加者で、演劇研究者や批評家でやってくる人はそんなに多くないのではないか?登録認証すれば、すべてのプログラムに無料で参加できるのか、あるいは個々のプログラムごとに事前参加申込が必要なのか、あるいはプログラム参加ごとに支払いがあるのか?、など知らなかった。
私の場合は、今回は日本ケベック学会の小畑研究奨励賞を滞在費用の一部として利用して、ケベックに演劇の研究調査の名目で来ている。RIDEAUについては在日本ケベック政府事務所の文化事業担当のKさんに教えてもらい、参加申込にあたっては便宜を図ってもらった。それで所属は日本ケベック学会、日本代表、プロフェッショナル枠で、参加登録されているらしいのだが、これでいったい現地で何ができるのか、よく分からないままケベックに来たのだった。参加登録は既にやっているのに(Webの入力がなぜか上手くいかずけっこう大変だった)、さらに現地でaccréditation が必要とは、いったいどういうことなのだとちょっと不安だった。
登録認証受付の人に16時半から始まるオープニングパーティの会場でも認証をやるからそこでやればいいと言われる。
パーティの受付が始まるまで一時間ほど時間があった。近くにある国会議事堂に行って写真を撮る。パーティ会場でまずaccreditation。何のことはない、名簿での出席チェックで、チェック何終わると首から下げる顔写真とQRコード付きとプラスチックのプレートをもらった。期間中のプログラムに参加するときは、会場の入口でこのQRコードをチェックするしくみだ。パーティのあとにある歌手のショーケースに娘も連れて行っていいかと聞くと、それはできない、見本市登録者でないとダメとの返事。このへん、実は融通利かせてくれるのではないかと思ったのだが、きっかり断られた。まあ、仕方ない。
ケベックで真冬に行う舞台芸術見本市ということで、パーティは数十人規模のものを想像していたのだが、オープニングパーティの会場にはパフォーマーも数百人がいる思っていたより大規模なものだった。会場に入るとそのままほぼ放置。互いに顔見知りの人が多いようだ。顔見知り同士でなくても、すぐに打ち解けて、楽しげに会話している。知らない人たちのあいだに、一人ポツンと放り込まれた感じで、こういう場での社交的振舞いのスキルが乏しく、フランス語会話力も低い私には、しんどいパーティだった。ただ今回はこういう居心地の悪い、気まずくなるような時間も、敢えて避けないようにしようと思っていた。ある種の修行のつもりで。
RIDEAUの参加者のほとんどはフランス語圏の人たちだ。ケベック、ローカルではあるが、フランス語圏の人たちは安心して、のびのびした気分で参加できるイベントなのだろうと思う。
喧騒の中、一人でドギマギとしていると、私以外もう一人の日本人参加者のルミさんが私を見つけて声をかけてくれた。ケベック州政府事務所のKさんから彼女の参加は聞いていたが、これから初対面だった、音楽関係のプロデューサーだが、そのフランス語が流暢なのにまず驚く。聞けばもともとはトランペット奏者として、フランスで活動していて、紆余曲折を経て音楽プロデューサーになったとのことだ。彼女はいろんな人に気軽に話しかけ、会話のグループを作っていく。おおっ、プロって感じだ。しばらくの間、彼女に付いて、このパーティのなかに自分も「入った」ふりをした。ずっと彼女にくっついているのも何かなと思い、離れて別の人に話しかけてはみたものの、話は弾まずという気まずさを数回繰り返しつつ、会場をウロウロ彷徨った。90分の苦行のあと、会場を後にし、娘と落ち合い、娘に滞在先の部屋の鍵を渡す。もし可能であれば、娘と一緒に音楽のショーケースに行くつもりだったが、ダメだってので女は一人で先に宿に戻らなくてはならない。
娘と別れた後、シャトルバスに乗って3人のミュージシャンのショーケース会場になっている旧市街の劇場に行った。会場は150席ほどのライブハウス。ここでは3人のアーティストが20分ずつパフォーマンスを行う。最初に演奏したのは、80年代から活動する女性歌手、Chloé Sainte-Marie。彼女のことは数年前に日本ケベック学会て、ケベックの詩とシャンソンについて小さな企画を行ったときに取り上げていたので、知っていた。ガストン・ミロンなどケベックの詩人の詩に曲をつけて歌ったり、全編、カナダ先住民の詩に曲をつけて歌ったりする独自のスタイルを持つ歌手だ。1962年生まれで60歳だが、細身でキュートでエキセントリックな雰囲気を持っている。3曲か4曲が、その中には先住民の言葉の歌も入っていた。歌うにあたって、詩としての言葉と丁寧に向き合っているように思える。ケベックのフォーク音楽の伝統であるシャンソニエの系譜にある歌手だ。言葉を重視しているが故に、パフォーマンスとしては親密で誠実だが、地味で盛り上がりには欠ける。とは言え彼女のパフォーマンスに立ち会えてよかった。
2番目はINUのアーティスト、Scott-Pien Picardのバンド。しかしINUのアーティストとは言え、その音楽は典型的なロックロールのように思えたが。ボーカリストの風貌やパフォーマンスはどことなくプレスリーを思わせる。バンドのメンバー全員がデブだった。一番デブのギタリストの大仰で滑稽なパフォーマンスがよかった。型にはまっているが、その型で遊んでいるような雰囲気があるバンドだった。
三組目のJuste Robertは、ギター、ボーカル、キーボードの三人編成。ユーモラスでとぼけていて、そして詩的余韻のあるフォーク音楽で、この劇場で聞いた三組の中では、一番わたしの好みだった。
旧市街のプティ・ジャンプラン劇場のショーケースの後は、シャトルバスでImpérial Bell劇場へ移動。ここは三百席ぐらいの広さか。キャバレー風の客席で、飲みながら見る劇場なのだろう。ここでも三組のアーティストの演奏を聴いた。最初に登場したイヌーの女性歌手、Laura Niquay ローラ・ニケは、彼女の最初の発声からガツンと引き込まれた。咆哮のようにも思える力強い歌声だった。民族楽器だと思われる太鼓を手に歌うスタイルもいい。迫力あるパフォーマンスに観客も一気に盛り上がった。二組目のAmmoyeは、ハードでポップなレゲエ。明るくエネルギーに満ちた歌声、巨大なアフロヘアと溌剌とした切れのいい動きも魅力的だ。
3組目のAFRICANA SOUL SISTERは、エレクトロニックなアフリカン・ポップ。悪くないけれど、音楽的に単調で、前の二組と比べると印象が薄い。
終演は22時半。シャトルバスでRIDEAUの本部があるヒルトンホテルまで行き、そこから路線バスに乗って自分の宿な戻る。路線バスが深夜まで走ってあるのはありがたい。
しかし芸術作品の見本市というのは、見せる方にとってもキツそうだなあ。興行主に値踏みされることを意識して自分の作品を20分の短い時間にカタログ化するのだから。
人はなぜ演劇を作るのか?と言う夢を見る。十箇条があるのだが,それらはありきたりだが,本質的なことが書かれていた。その十箇条の文句が思い出せない。
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