2023年2月20日月曜日

2023/2/15 ケベック第6日

2月15日(水)ケベック第6日

午前7時起床。朝ご飯のとき,イザベルと話していて,いやな気分になったことがあった。イザベルがニースに居住していることを昨日,るみさんから聞いて,そのことを話題にした。私はフランス語を教えていて,7年ほど前から毎年学生を連れてニースで語学教育の研修を行っていること,こんどは7月の終わりに行く予定であること,もしタイミングがあえばイザベルのパフォーマンスを学生たちに見せることができればと思っていることなど。そうした話をしているとき,私のcirqueの発音がまずくて,イザベルに通じなかった。cirqueのciを,うっかりchiで発音してしまったのだ。「ああ,発音の問題だ。フランス語を教えているのに恥ずかしい。ここでは自分のフランス語力のなさにショックを受けた」ということを言うと,「そう,ニースで本物のフランス語を学ぶといい。ケベックのフランス語は,私にも理解できないことがあるから」と彼女は言った。

「本物のフランス語」という言葉にカチンときた。「うん,でも私はケベックの文化が好きなので,むしろケベック人のようなフランス語を話したいと思っているよ。もっとがんばらなくては」と言うと,変な顔をしていた。いかにもフランス人が言いそうなことをと思ったが,ケベックに仕事を求めにやって来ているパフォーマーからケベックのフランス語を否定するような言葉が出たのはとても残念だった。

今日は洗濯の日。Air BnBの家主のMartinには,洗濯のことは伝えている。午前中はLe Diamant劇場にダンスのショーケースを見に行った。二団体の公演があった。一本目はBenajamin Hatcherの《Sonore des_accord》(調和あるいは不調和の響き》。30分ほどの作品。7人のダンサーによる「芸術的な」タップダンス。正直なところ,どこが面白いのか,すごいのか,私にはまったくわからない。次はチュニジカのダンスグループによる55分のパフォーマンス。男女三組,6人よるダンスだった。チュニジアにある幻想的なキャバレーのショーという設定。前の演目よりは表現の変化があって面白かったが,ぜんたいとしてはやはりどこがとりわけ素晴らしいのかわからないパフォーマンスだった。概要を読むと「なるほど」とは思うのだけれど,表現上の面白み,ユニークさが私には分からなかった。会場は大喝采だ。

Le Diamant劇場でのダンスのショーケースを見た後,劇場から150メートルほど離れたところにある靴屋で靴を買った。ケベック訛りの店員のことばがさっぱり理解できなかったのはちょっとショックだった。ただし靴には大満足。バーゲンで16000円ぐらいの価格だった。履いた瞬間に,前の靴との違いが分かる。暖かくて,安定感がある。別世界だ。かかとも親指の付け根も全然痛みを感じない。靴購入後,一度家に戻る。途中,家の近所のスーパーで昼ご飯用にクロワッサンなどを買った。飯を食べた後,洗濯をする。乾燥機が壊れているとのことで,洗濯後は部屋のクローゼット干しとなる。暖房が効いているし,乾燥もしているので,半日干しておけば乾くはずだ。午後の予定は決めていなかった。



5-7 Officielは,ケベックのフォーク・カントリーのバンドを聞きに行こうと思っている。会場はライブハウスで,入場チェックが甘い場所なので,娘も誘う。5-7 officielの開始まで時間があったので,昨日,ケベック在住のサーカス・アーティストのリュウノスケさんを通じてFB上で知り合いになったサーカス・アーティストでプロデューサーでもあるAnouk Vallée-Charestが,RIDEAUのMarchéに出展しているので,彼女のブースを訪ねることにした。Anouckのブースはすぐに見つかったが,彼女に関心を持つプロデューサーが次々とブースにやってくる。彼女の仕事の邪魔をしては申し訳ないので,挨拶した後,一度,彼女のブースを離れ,Marchéの会場ををぶらぶら歩いた。

来週,モントリオールで会うことになっている演劇批評家,ミシェル・ヴァイスさんの奥さんが「語り部」のパフォーマーで,その奥さんが関わる語り部のグループがスタンドに出品していると聞いていたので,そこを尋ねることにした。しかしそのスタンドでも,なにか打ち合わせらしきものがやっている。どうしよう,しばらく待っているかと思っていたら,すぐそばのスタンドの黒人から声をかけられ,彼のイベントの説明を聞くことになった。地元ケベックのイベンターで,《我が国の歌》Les chant de Mon paysというケベックを本拠に活動する黒人ソプラノ歌手によるソロ・オペラのプロモーションだった。Felix LeclercやGilles Vigneaultなどケベックの偉大なフォーク歌手,シャンソニエのナンバーで構成された歌によるケベックの歴史,みたいなものらしい。日本の一演劇研究者に過ぎない私にプレゼンしたところで,営業にはならないのに,申し訳ない気がする。「語り部」のブースから,クライアントらしき人が立ち去ったので,ブースにいたおじさんに声をかけると,そのブースは,語り部は語り部でも私が訪問するはずのMichel Vaïsさんの奥さんのプロジェクトとは別の団体だった。それでもそのおじさんに,ケベックの「語り部」の特徴,活動についていろいろ教えて貰う。このブースの隣が,Michelさんの奥さんが関わっているプロジェクトだった。語り部の女性が二人いて,この二人からも話を聞く。Ariane LabontéさんとSuzane O'Neillさんだ。

このあと,Anoukのブースに戻り,ケベックのヌーボー・シルクについての話を聞いた。子供向きから大人向きまで,キャバレーでのエロチックなショーも含め,さまざまな領域で,さまざまな様式のサーカスが,上演されていることを知る。



Anoukのところで10分ぐらい話すと,marchéの終了時間の17時10分前だった。Marchéの会場から出ようとしたところで,等身大の人魚のフィギュアがディスプレイされているブースに目がとまった。Simonriouxのブースだった。彼は在日本ケベック州政府事務所の久山さんのことを知っていた。後で調べると,主宰のSimonはシルク・ド・ソレイユのパフォーマーでもあるらしい。シルク・ド・ソレイユが大型テントないし劇場を使った大規模なショーであるのに対し,Simonのエンターテイメントは,サーカスと音楽を組み合わせたもので,シルク・ド・ソレイユの美学を継承しつつ,パレードや少人数の規模の野外公演,室内公演など,上演状況に適応した様々な形態のショーを提供している。日本でのパフォーマンスはまだないらしい。



結局Marchéが終わる17時ぎりぎりまで会場にいた。17時に娘とMarché会場の入り口で待ち合わせをしていた。コンフェランス・センターの近くにあるライブハウスでやっているトラッド,ケベック,アイルランド,スコットランド,ケイジャンのフォーク音楽のライブに行った。入場するとチケットを貰い,それと引換にバーのカウンターで飲み物が提供される。娘にもチケットは渡された。私は炭酸水,娘はビールを頼んだ。最初のバンドはトラッド・フォークの雰囲気の乏しい荒っぽいロック。女性ボーカルのバンドだった。元気がいいけれど,ダサい。その音楽を聞いていると,娘の様子がおかしい。目がぐるぐる回り,これ以上ここに居られないという。外に出ようとするとよろめいて倒れてしまった。回りにいた人たちが心配して声をかけてくれた。幸い15分ほど外で休んでいると,娘は回復した。夕食はライブハウスの近くにあったハンバーガー・ショップで食べた。サイドメニューにプーティンがついているセットを頼むと、ハンバーガーの上までドロドロのグレイビーソースがかかった重厚な食べ物が出てきた。娘はハンバーガーとフライドポテト。フライドポテトは持ち帰りにしてもらう。



飯を食べているうちに娘はほぼ回復した感じだったので、私は19時半から文明博物館の劇場に演劇のショーケースを見に行くことにした。ヒルトンホテルからのシャトルバスはすでに出てしまっていたので、路線バスを使ったら、10分ぐらい遅れてしまった。

この日は男女二人のユニット、Marilyn DaoustとGabriel Léger-Savardの『Le temps des fruits (果実の時間)』。実に奇妙な、そしてとても興味深いスペクタクルだった。背景のスクリーンには常に映像が映し出される。その映像は舞台手前、下手に置かれた机で演者が手に取る様々なオブジェ、写真、資料だったり、演者が語っている内容に関わるものだったりする。そこで語られるのは世界史、人類史に関わる事柄だったり、博物誌的なものであったりして、脈絡がない。ある種の百科全書的な語りが映像と共に行われる。しかし言葉と映像はによる語りは、次第に、加速度的に抽象化され、ついには言葉が失われた舞踊表現のなかで表現が溶解していく。わけのわからない変なスペクタクルだったけれど、面白かった。

Marilyn DaoustとGabriel Léger-Savのあとは、Impérial Bell劇場に移動し、音楽のショーケースを見る。カントリーっぽい雰囲気もあるレトロで愛嬌たっぷりのグラムロックのLumière 、多彩で大胆な照明で演劇的な演出のステージを提示するエレクトロ・ポップのLydia Kepinski。この二組のステージは楽しかった。3組目のトリオZouz はちょっとプログレの風味もあるか。印象に残っていない。Impérial Bellではルミさんと合流し、autochtones のバンドを日本に持ってくる可能性などについて話を聞いた。




明日はRideauの最終日だが、ショーケースはない。Marché やガラといったプログラムはあるが、それはパスして娘とケベックの観光をしようと思う。Imperial Bell劇場から路線バスで帰ろうとしたのだが、暗くてバス停がどこにあるのかわからなかった。気温も比較的高かったし、歩いて帰っても15分ほどということで、google map頼りに歩いて帰ったが、指定されたルートが低地のケベックを通るものだったため、あー家にたどり着く直前に170段の急な木製階段、「フランシスコ会修道士の階段」を登る羽目になった。




 

0 件のコメント:

コメントを投稿