2020年2月16日日曜日

2020/02/14-15 ニース研修第1日

毎年2月後半に行っていニースでのフランス語研修は今回で6回目になる。今回は17名の学生が参加した。参加するのは私がフランス語を教えている武蔵大学と早稲田大学の一、二年生が中心で、例年は早稲田の学生のほうが多いのだけれど、今年は武蔵の学生が多かった。またいつもは私一人が教員として同行しているのだが、今年は武蔵でフランス語を教えている同僚に声をかけてこの研修に同行してもらっている。美術館学を専門とする女性の教員だ。今年は武蔵の学生が多いし、女性の参加者が多数なので、彼女に来てもらうのは心強い。真面目でタフそうな人なので声をかけた。

参加者のうち一人は、私とほぼ同年代のSさんで元教員のかただ。教員を一旦退職して、大学に学士入学してフランス語を勉強している。その経緯についてはまだ詳しい話を聞いていないが、今年度、彼は私の授業に3コマ出ていて、「ニース研修に来てくれればいいのになあ」とひそかに思っていた。実直謙虚でかつおおらかな雰囲気に好感を抱いていたし、彼のような異色の学生が参加すると研修の雰囲気にも面白い影響があるのではないかという期待もあった。あと「大人」の参加者がいるとやはり心強いというのもある。

今年の懸念事項はなんと言ってもコロナウイルスの影響だ。病気への不安・恐怖が、潜在的なアジア人差別と結びつき、嫌な目に合う可能性をどうしても考えてしまう。学校には先手を打って、教室やホームステイ先で差別的な言動に学生たちがさらされることのないよう配慮を求め、差別的言動が会った場合は断固として抗議するむねを伝えておいた。そのメッセージに「日本ではコロナウイルスは完全にコントロールされていて、拡大の懸念はない」といったことを書いたが、それを出したあとで東京、沖縄、和歌山、北海道などで二次感染の可能性を示唆する発症例が明らかになって、暗澹たる気分になる。
「日本政府は私が思っていたほど有能ではなかった」と言い訳しなくてはならないではないか。語学学校には中国からの留学生も多数いるはずで、彼らの扱いも相当デリケートなものになっているだろう。

「差別する人は残念ながらどこにでもいる。差別的な対応をされてもそんなにショックを受けないように。そういうことがあったら、取り囲んで『さあ、話を聞こうじゃないか』みたいな感じでやっていければと思っている」というようなことを学生たちには話した。

昨年は行きの飛行機で学生がインフルエンザを発症し、ニース到着早々、休日診療の病院に連れていくという事態があった。今年、今のタイミングでそんなことがあれば大変なことになるだろうな、と思っていたが、幸い体調の悪そうな参加者はいなかった。

成田空港で搭乗待ちしていると、女子学生ひとりが外国人にナンパされた。最初にカナダの現地時間を聞かれ、それに答えるとSNSに誘われたそうだ。

ニースへの航空会社はエミレーツ航空を利用した。ドバイ経由で、成田空港ードバイが12時間弱、ドバイーニースが7時間弱だ。帰りは気流の関係なのか時間が3時間ほど圧縮される。搭乗時間はヨーロッパ経由便より長くなるが、機内はきれいだし、乗務員も感じがいい。映画も豊富だ。成田を23時発の夜便だ。ヨーロッパに夜便で飛ぶときは機内で寝ておいたほうがあとが楽だ。

成田ードバイ間では私は前日寝不足だったこともあり6時間ぐらいは眠れたと思う。起きてた時間はイラストを書いたり、プーシキンの『スペードのクイーン』を読んだりしていて、映画は見なかった。『スペードのクィーン』はニース・オペラ座でチャイコフスキーのオペラを見るのでその予習として。原作とオペラではかなり違うみたいだが。光文社古典新訳文庫の望月哲男訳をキンドル版で読んだ。『スペードの女王』はずっと前に神西清訳で読んだことがあるのだけど、望月訳はリズミカルで読みやすい。そして文庫の翻訳解説としては異例に詳しすぎる解説がとても興味深い内容だった。


ドバイーニース間は2時間ほど寝る。起きているときはイラストを書いたほか、『ティファニーで朝食を』を見た。今更この古典的名作を見ようと思ったのは、早稲田の国際教養学部での一年生向けのゼミ、《芸術表現におけるステレオタイプ、オリエンタリズム》でこの映画に出てくる日系人ユニオシについて言及したものがあったからだ。どんなふうに描かれているのか確認してみたかったのだ。日系人ユニオシの表現と役どころは愉快ではなかったけれど、オードリー・ヘップバーンが演じた高級娼婦ホリーの生き様には徐々に引き込まれる。前に見たことはあったけれど内容はほとんど忘れていた。前に見たときはホリーという人物にまったく共感できなかったのだと思う。

予定通り、2月15日12時半ごろ(日本時間は19時半)にニースに到着。空港で家族とイタリア旅行に行っていた学生と落ち合うことになっていたが、その学生が私たちの到着ターミナルを勘違いしていたため、合流に手間取る。
17人の学生は基本二人部屋になっている。ホームステイで12組に滞在先が分散しているのがやっかいだ。。ホームステイにしているのはそれが一番滞在費が安上がりだからだ。またフランス人の生活文化やフランス語の使用という教育的な面でもホームステイの効用は実に大きい。校舎については実際に研修をやってみてわかったことだが。学生たちも他人の家の生活、しかもフランス語でということで、かなりの負荷がかかる。

昨年は学校の送迎係が、間違ったステイ先に学生を送り届けるというミスがあって初日に混乱した。今年は念入りに学生の名前とその届け先の照合を行った。それで大丈夫かと思えば、ステイ先のひとつに家主が不在という事態が今年はあった。私が乗っていたのとは別の車でステイ先に送り届けられた学生だった。私の乗っていた車を運転していたのが送迎担当のチーフだった。そのチーフのもとに電話で連絡が入った。
「学生を道に放置するような真似は絶対しないでくれ」
「もちろんだ」
と返事があったが、こういうときのフランス人は信用できない。結局、ホームステイ手配の担当者が急遽別のステイ先を探して、そこに送り届けることになった。
この他にも学生や大家から電話が何本か入り、小さなパニック状態になる。ドバイでフランスの電話会社のプリペイドsimに入れ替えていて正解だった。

今回は二組の家が学校から3キロほど離れたかなり遠くの家に滞在することになって、今日はそのフォローをしなくてはならないと思っていたのだが、ステイ先が急遽変更になった学生の家もかなり遠い。歩くと学校まで40分ほどかかるので、それはちょっと可哀想だ。他の家の滞在者は歩いて学校まで行けるけれど、遠くに住む学生たちにはSNCFかトラムの利用の仕方を教えなくてはならない。私は自分のステイ先の荷造りを解いてから、学生たちの滞在先に近いSNCFの駅、Nice-Riquier駅で学生たちと待ち合わせをした。そこに向かう途中で、元教員のSさんと参加者一人キャンセルのため一人部屋滞在のとなった女子学生と会い、一緒にNice-Riquier駅に行った。

Nice-Riquier駅は、ニースの中心にあるNice-Ville駅から一駅である。私がこの駅で降りるのは初めてだった。駅に着くと駅の待合室で学生たちはフランス国境近くのイタリアの小さな町に数十年前から住んでいるという日本人のおじいさんにつかまって、そのおじいさんの話を聞かされていた。こうした海外長期滞在の日本人は癖のある面白そうな人が多いのだけど、滞在先が急遽変更になった女子学生のことやら、これから学生たちに教えておかなければならないことなどが頭にあって、このおじいさんの話の相手をしている心の余裕が私にはなかった。

遠くに住む3組の学生のうち、2組は一駅分SNCFを利用して学校に通うことにした。回数券みたいなものがあるのかと駅の窓口に聞くとないと言う。ただ一週間の定期はあるというので、彼女たちにはその定期を購入した。もう1組はトラムを使って学校の近くまで行かせることにした。トラムには回数券があるのでそれを買い与えた。


とりあえず学校への行き方、トラムの乗り方を教えておこうと思い、トラムに乗るが、あいにくカーニバルのパレード準備と重なってしまい、トラムが目的地であるNice-Ville駅までは行かない。そのはるか手前で降ろされてしまう。回数券を使って8人で乗ったのだけど、大損だ。とにかく位置関係の要となるNice-Ville駅に連れて行かないと意味がないと思い、降ろされた場所からNice-Ville駅までたらたらと歩くはめになる。週末で市街地中心はけっこうな人手だった。疲れた。

明日は朝からローカル私鉄に乗ってEntrevauxという町に行く予定だが、今日学生たちにつきあって歩いてわかったのは、待ち合わせ場所であるローカル私鉄の駅に行くことが学生たちにはかなりハードルが高そうだということだ。グーグルマップの使い方さえ頼りない。遠くに住んでいる学生たちにとっては、券売機で切符を買うのも大変だろう。フランスの切符券売機というのがまたポンコツで、紙幣は受け付けない、硬貨かクレジットカードのみしかだめ、クレジットカードもなぜか私の普段利用しているマスターカードは支払いが拒絶され、何度やってもだめ。別のVISAのデビットカードで支払いがようやくできた。たかが一駅分の切符を券売機で買うことに無駄に時間がかかる。

Nice-Ville駅で、Nice-Riquier駅発-Nice-Ville行きの明日の切符(日付も指定しなくちゃならん)を買おうとすれば、なぜかNice-Riquerを始発駅とは設定できない。遠くに住んでいる二組は明日の朝は、Nice-Riquier駅からNice-Ville駅に列車で来なくてはならないのに(週の定期は月曜〜日曜までなのだ)。
「明日の朝、自分たちで駅で切符買います」
とか言っていたけど、絶対に戸惑うに違いないと思い、結局また私は学生たちとともにNice-Riquier駅まで行き、そこの券売機でNice-Riquier発Nice-Ville駅の切符を買ったのだった。

自分の下宿先に戻ったのは午後7時を過ぎていた。疲れた。
私の下宿先は昨年、そして3年前と同じマダガスカル人の家庭。ここは飯がうまい。今日の夕飯は白米と豚肉と野菜のソテー。豚肉と野菜のソテーは中華風の味付けになっていて、まさにご飯のおかずという感じだ。実にうまい。ちょっと生き返った。

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