昨夕、咳で薬局に一緒にいった学生に様子を聞くと、昨晩はつらかったけど、今朝から薬は効いて咳はあまり出なくなった、ただ薬剤師が言っていたように猛烈に眠くなるとのこと。医者にあらためていく必要ななさそうだった。今日の午後のモナコの遠足にも彼は参加した。ああ、よかったと思ったところで、別の学生から朝から腹の調子が悪くて下痢だ。しかもちょっと熱っぽい感じがするという訴えがあった。体温を測りたいというので、体温計を持って行った。その学生曰く、昨日昼に食べたステーキが生焼けだったのにあたったみたいだとのことだったので、体温計を測るあいだに、一度家に戻り、下痢止めの薬をとってきた。私の滞在先は学校の隣の建物なのでこういった行き来がすぐにできるのが便利だ。
レアのステーキと言っても火は通っているので食あたりするのかなあと思いつつ、食あたりだったら下痢止め飲めば何とかなるかなと思ったのだが、学生のもとに戻り体温計を見ると、39度近くあった。これは単なる食あたりではないのではないかと思い、もう一度測ってもらう。
やはり39度近くの熱だ。下手に薬を飲まさないで、このまま医者に連れて行ったほうがいいと判断し、学校のスタッフに近所の医者について聞く。スタッフが行きつけの内科医を予約してくれた。学校からは歩いて15分ほど。もっと近くの医者がいいのにと思ったが、予約が30分後に入ったというのでそこに学生を連れて行くことにした。こういうときでも診察にいちいち予約が必要なのがフランスの面倒なところだ。
フランスの個人クリニックは大きな看板を掲げていない。普通の住宅棟のなかに診療所がある。学校が教えてくれた住所の場所に行くと、同じ番地に複数の医師の名前があった。学校スタッフに医師の名前を書いてもらったのだけれど、この文字が判読できない。番地のインターフォンにある複数の医師の名前のボタンと手元にあるメモ上の名前が一致しなくて困った。とりあえずこれかなあという医師の名前が書いてある部屋に入った。入り口にも医院の看板があるわけではないので、恐る恐るドアをあけた。
待合室には2人の先客がいた。われわれの予約は1130だったが、前の患者の診察が長引き、正午過ぎにわれわれの順番になった。女性の医師がひとりでやっている。看護師もいない。診察室もごく普通の書斎といった感じだ。フランスの医院には医療検査機器は血圧計などごく簡単なものしかないが、問診や触診はかなり丁寧に時間をかけてやる。医師の診断は食あたりではない、インフルエンザだろうとのこと。解熱鎮痛剤を飲んで熱を下げ、家で症状が治まるまで休むしかないと言う。ニース到着直後に病院の救急診療でのインフルエンザの可能性が高い別の学生を診察した医者とほぼ同じことを言っていた。
「解熱鎮痛剤だけですか? タミフルは使いませんか?」と一応聞いてみる。すると「タミフルは使いません。解熱剤を二種類渡しますので、それを飲んで、安静にしてください」と返事が返ってきた。診察料は30ユーロだった。海外旅行保険はあとで払い戻しなので、診察料全額でこの値段ということになる。日本とそんなに変わらないのではないだろうか。薬は解熱剤二種類。解熱剤の一つはパラセタモールでこれを一回1000mgを一日三回。日本ではカロナールという薬剤がこの薬だが、服用量は600-1500なので、フランスでは日本でマックスとされている倍の量を服用するということだ。これで熱が下がらなければ、イブプロフェン400mgをパラセタモールの服用のあいだに追加投入しろとのこと。パラセタモールを3000mgとっているなら十分だろうという気がするが、できるだけ苦痛を和らげるのが重要というフランスの考え方がこの処方に反映されている。
苦痛は薬で取り除くが、インフルエンザを特別視しないという考え方もフランス流だ。どうせインフルエンザは薬では治らないのだから、熱をできるだけ下げる解熱剤を出して、あとは安静にしていればいい。そしてこの解熱鎮痛剤の大量投与は、インフルエンザ用の薬の服用とほぼ同様の効果があるのではないかという気がする。さきほどネットで検索したところ、タミフルなどの抗インフルエンザ薬の多くは日本で使用されているとのことだ。日本ではほとんど問題にされることがない薬価の高さ(フランスと比べると)、そして抗インフルエンザ薬の大量使用など、日本の薬剤会社の戦略を疑いたくなってしまう。
薬局で薬を購入したところ5ユーロくらいだった。保険適応なしでこの値段なのだから、薬剤は日本に比べるとフランスのほうがはるかに安いように思う。薬局から学生の滞在先までタクシーで戻った。この学生の滞在先は二人部屋なのだが、空いている部屋があるというので、ステイ先のマダムにもう一人の学生への感染を防ぐため別室にするようにお願いした。私はこのマダムとちゃんと話をしたのは今回がはじめてだったのだが、マダムの対応のおおらかさ、暖かさ、学生への気遣いのしかたなどに、学生が彼女に対して信頼感を抱いている理由がわかった。ホームステイといっても契約した語学学校の学生の食事付下宿屋のような感じなのだけれど、フランスにはこうした世話好きで親切な人の割合は日本より多いような気がする。ものすごく意地悪で不愉快な人間の割合も高いのだが。良きにつけ悪しきにつけ、フランス人は日本人より人間くさいように思う。ニースに来るとこの人間くささを思い出す。
午後は学校主催の遠足はモナコ行き。しかし14時半と学校を出る時間が遅かったので、モナコ滞在時間は2時間ほどしかない。案内人は先週土曜日にカンヌに一緒に行った美しいジョシアだった。海洋博物館に一時間強滞在した後、旧市街と宮殿広場を通り過ぎたただけで終わった。カジノなどがあるモンテカルロには行く時間がない。モナコは近隣のコートダジュールの町と違い、道にはごみや犬の糞が落ちていないし、警官がやたらたくさんいて治安もいいらしい。崖沿いの細長い土地に高層ビルが立ち並ぶ様子は背景の岩山とともに独特の景観を作っている。南仏の観光では外すことができない観光スポットだが、私はこの人工的すぎる雰囲気が好きではない。町全体が作り物っぽく見えてしまう。ニースの濃厚な人間くささとは対照的に、モナコはドライでよそよそしい空気で満ちている。
ニースに戻ってからスーパーに行き、インフルエンザで休んでいる学生に飲み物や食べ物を買って、同じ家に滞在する学生に託した。
ブラバン家の今日の夕飯は、カモ肉のローストとトマトソース(?)で色付けされたチキンライス風のごはん、それから野菜の煮込み。安定のおいしさ。しかし息子のエヴァンはむしゃむしゃとおいしくなさそうに食べている。
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