2019年3月5日火曜日

2019/03/01 ニース研修2019春14日目

研修14日目。
二週目の金曜日ということで最後の授業日になる。今回は19名の学生は4クラスに分かれた。このなかで一番下のレベルのクラスのメンバーは我々のグループだけである。最初は誰も全然しゃべれなくて、先生もいったいどうしたものかという感じだったと思うのだが、まもなく学生たちと先生が打ち解けて、すごくいい雰囲気のクラスになった。学生が先生を信頼して、積極的に発言するようになった。最終日の今日はこのクラスの学生たちは画用紙と折り紙でメッセージボードを自発的に作り、授業の最後に先生に渡していた。ベテランの女性の先生だったが、このサプライズに感動して泣きそうになっていた。「今、メッセージをここで読んだら泣いてしまいそうだから、あとでゆっくり読みます」と言っていた。受講証明書の授与のとき、先生は学生ひとりひとりにビズをしていた。学生は嬉しそうに受講証を受け取っていた。
午後はアンティーブに学校主催の遠足に行った。遠足はわれわれのグループに対して企画されたものだったのだが、スリランカ出身のスイス人の女の子が私の学生と仲良くなっていて、彼女も私たちのアンティーブ遠足に参加することになった。アンティーブの遠足にわれわれを先導したのは、舞台美術専攻の若くて美しいダンサーのジョシアである。彼女も私たちのグループの学生たちとすっかり仲良しになっていた。アンティーブまではニースから列車で20分ほどだ。こじんまりした美しい街だ。アンティーブの旧市街は、ニースの旧市街をミニチュアにしてさらにかわいく、小ぎれいにしたような感じだ。海の色もニースとは違う。もっと濃い青だ。アンティーブではピカソが晩年を過ごした。ピカソ美術館訪問がアンティーブ行の主な目的だったのだが、美術館に着くと美術館のスタッフが「18歳以上は学生でも一律6ユーロの入場料が必要だ」と主張する。学校はこれまで何百回もピカソ美術館への遠足を実施し、これまでまったく問題がなかったのに突然こんなことを言われてしまったのだ。ジョシアが学校に連絡を取るが、学校の担当者とつながらない。まあフランスではありそうなことだが。ジョシアは混乱してどうしたらいいのかわからなくなってしまったようで、明確な説明なしに学生たちを先導して街中を歩いていく。こうしたときに説明がないというのもフランス的ではある。これはよくないのでジョシアに「ちょっとここで止まってみんなを集めて、まず状況を説明してくれ」と要求する。
ジョシアから状況説明があったあと、それではどうするということになったのだが、学校側とピカソ美術館側の交渉がどうなっているのかわからない。一時間ぐらいしたら入れるかもしれないとあやふやなことをジョシアが言っていたが、それまで集団で行列を組んでぐるぐると街を歩き回るのではなく、待ち合わせ場所と時間を決めて、自由にそれぞれが街を散策するのではどうかと提案した。今日は夜にオペラを見に行くことになっていたので、観劇前の食事時間を考えると、だらだらアンティーブにいたくなかったのだ。学生もそれで納得したので、一時間の自由散策ということになった。私はジョシアと海辺を散策したあと、学生数名と仮設の観覧車に乗った。観覧車は巨大なものではなかったのだが、乗客が乗るかごがむき出しになっていて上に上がると思っていた以上に怖かった。アンティーブには高い建物はないので、観覧車の上からの眺めは素晴らしいものだった。ピカソ美術館がなくなって「なんのためにここに来たのか」と言っていた学生もいたが、まあ仕方ない。パリのピカソ美術館と違って、晩年の子供の絵みたいな作品ばかりなので、見られなくてもそんなにがっかりする必要はないなどと言ってなだめる。
ニースに戻ったのは午後5時過ぎだった。オペラ座の開演は午後8時なので十分時間はあるのだが、学生席は天井桟敷の両サイドの自由席なので開場と同時に上にあがって最前列を確保しないと舞台がほとんど見えない席しかなくなってしまう。8時開演で終演が11時なので、食事はその前にすませておかなければならない。しかしまともなレストランは午後7時半ごろにならないと営業開始にならない。ニース駅でいったん解散して、7時15分にオペラ座の前に集合とする。オペラ鑑賞には16名の学生が参加することになっていた。食事はそれぞれがばらばらに取ることに。私は帰国子女二人組の女子学生に確保され、これにプラスして男子学生二人の5人で、サレヤ通りにあるノンストップ営業のツーリスト向けレストランで食事を取ることにした。4人がムール貝のポテト添え、1人がシーフードパスタを注文。ムール貝はどこで食べてもそこそこおいしいし、フランスの外飯では比較的安価だ。私以外は初ムール貝だったが、みな気に入ったみたいだった。
オペラ座には学生の多くは開場と同時になかにはいった。二人だけ遅れて入った学生がいたが、全員天井桟敷サイドの最前列は確保できたようだた。死角はあるが最前列なら舞台を見ることができる。二列目、三列目だとほとんど見えない。私は学生席ではなく、自分で別のチケットを購入していた。天井桟敷のフロアの一階下の中央最前列。舞台がよく見えるいい席だった。料金は51ユーロ。
ニースのオペラ座は19世紀末に建築された馬蹄型客席のクラシックな様式の劇場だ。パリのオペラ座の設計者のガルニエの弟子によるものらしい。大きさはパリのオペラ座よりこじんまりとしていて、サロンなどの空間はない。「ちゃんとした服装で」と指定されてはいるものの、多くの観客の服装はくつろいだ感じの普段着だ。地元の人たちに愛されているというような雰囲気の居心地のいいオペラ座だ。演目はストラビンスキーの《放蕩者の遍歴》。英語のオペラで、1951年が初演。私ははじめて見る作品だが、古代・中世風のアレゴリーが用いられ、ギリシア神話、聖書、中世・近代の説話などに現れるモチーフを自由に構成した台本は、荒唐無稽でシニカルで実に面白い。オペラの台本としては複雑すぎるのだが。音楽もとらえどころがなくてあまりとっつきやすいものではない。音楽的にも脚本的にもオペラ初心者には向かない作品だったが、案外学生は寝ないで見ていたようだ。
終演後オペラ座の前で写真を撮って、女子学生の送りの分担を決めて、解散した。帰宅すると深夜0時を過ぎていた。

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