今日は土曜日で授業はない。学校企画のカンヌへの日帰り遠足の日だった。カンヌ遠足は私たちのグループ以外からも参加者が数名あった。午前9時に学校に集合する。カンヌへは在来線で30分ほど。引率は学校のスタッフの若者だった。彼は日本語を少し話すことができる。日本にも数ヶ月滞在したことがあるようだ。日本人のわれわれとはできるだけ日本語で話すようにしているようだ。愛嬌のある可愛い若者なのだが、その仕事ぶりを信頼することは難しい。学校との入金をめぐる事務手続きのミスが彼に起因するものだったことから、数日前のエズへの半日遠足、そして今日のカンヌへの全日遠足の引率が彼であることに不安を抱いていた。エズではたいしたミスはなかったのだが、エズ行きのバスに乗る前に私のところにニコニコ笑いながらやってきて、「ミキオさん、電話ありません。電話なくした」と言ってきたのにはこちらも笑った。自分の携帯を学校に置いたまま、遠足の引率をしていたのだ。こういう失敗は可愛い。エズからの帰りの超満員バスに無理矢理我々グループを乗り込ませようとしていたのには、「おい、マジかよ。勘弁してくれよ」と思った。
今日も大丈夫な気がしなかった。
Azurlinguaのカンヌ遠足は私はこれまで7、8回は参加している。カンヌの旧市街をぶらりと回り、マルシェを見学したあと、船で15分ほどのところにあるサン=マルグリット島に渡り、島にある博物館と鉄仮面が収容されていた監獄、そして19世紀の兵舎が並ぶ城塞を見学するなどして、数時間を過ごしたあと、カンヌ市街に戻り、カンヌ映画祭の会場であるパレ・ド・シネマを見学して、ニースに戻るというものだ。昼食は船で島に渡るまえにカンヌ旧市街でサンドイッチなどを購入して島に渡ったあと食べるか、島に行く前にカンヌ市内のレストランで各自が自由に取る。
引率の彼はカンヌ駅について旧市街のマルシェのほうに向かう時点になっても、今日のプログラムにはついては何の説明もしない。これは学校の遠足では実はよくあることだ。マルシェに到着する前に、今日の一日の行動を参加者に説明するように促した。
するとマルシェで30分ほど自由時間を過ごしたあとは、カンヌの高台に登り、そこで写真を取ったあとは、麓におりて、映画祭会場のパレ・ド・シネマを見学して、一時間ほど自由時間。そのあとニースに戻る、と言うのだ。
「島への行かないのか?」
と聞くとレクリーエション担当の責任者からサン=マルグリット島に行くという話は聞いていないと言う。
「それはおかしい。私はAzurlinguaのカンヌ遠足に7、8回参加していたが、これまで島に以下なったことはなかった。だいたいカンヌの町をぶらぶら回って何時頃に解散するつもりなんだ?また参加者は昼飯をどのタイミングで食べるんだ?」と聞くと
「島に行くという話は聞いていないし。14時ぐらいに解散でいいかなと。昼飯は適当に時間をみつけて参加者が自由に食べればいい。惣菜とかマルシェに売っているし」と言う。
「週末の全日の遠足で、カンヌに行って町で二時間ほど過ごして帰るなんてありえないだろ? サン=マグリット島に行かないプログラムは私は一回も経験していないし、学生たちにも島に行くと言っているんだ」
「そんなに島に行きたいのだったら、パレ・ド・シネマの横にクルージングの会社があるから、今からそこに電話してミキオのグループが島に行けるように予約するよ。請求書は学校に回せるようにして」
サン=マルグリット島に行く船便を出している会社はいくつかあるのかもしれないが、少なくとも私がこれまで使ったことがあるのは、パレ・ド・シネマの近くから出るものではなかった。
「何時に出て、何時頃島から戻ることができる?」
「うーん、14時頃カンヌを出て。帰りはわからないけど。17時頃の便が多分あると思うし」
「14時出発じゃ遅すぎる。それに帰りの船の便が不確かなのは困る。そもそも君は、学校のカンヌ遠足で、参加者を島に連れて行ったことはあるのか?」
と聞くと、「ない」と答えた。
これはこいつに任せておくとろくなことにならないと思ったので「自分のグループは私が面倒を見る。帰りの電車のチケットだけ暮れればいい。君は他の参加者とカンヌの町をぶらぶらしておいてくれ」と言った。
「島に渡るのか? 船の代金を学校に出して貰わないと」と言うので、「とりあえず私が私のグループの船代を払う。学校とはあとで私が交渉するから、君は気にしないでいい」と答えるとちょっとホッとした顔をしていた。この段階で彼を切っておいて正解だった。一緒についていくとダラダラとカンヌの街中で数時間ぶらぶらするだけだっただろう。
その場で自分たちのグループは分離し、サント=マグリット島行の船が出る場所に向かった。11時半の船で島に向かい、15時15分の船でカンヌに戻った。
島では、カンヌで買いこんだ食料を野外で食べたあと、鉄仮面牢獄・博物館を見学。そのあとは島の西側にある浜で一時間ほど過ごした。サン=マルグリット島の城塞の景観や美しい海などを学生に見せることができてよかった。学校とは船代の交渉がしなくてはならない。うまくいきそうな気はしないが、面倒くさいけれどこれも勉強のうちだと思っている。
島から戻った後はパレ・ド・シネマの付近を回り、そのあとニースに戻った。ニースに戻ったは午後6時過ぎだった。
夜は8年前にニースに来て、駅の北側の下町のレストランで食事をしていたとき偶然知り合い、その後も付き合いが続いている女性と彼女の家の近所のインド料理やで飯を食べた。この3年ほどのあいだに、彼女の生活状況が激変していたことを知る。
彼女のインスタを見ていて、いったい最近何をやっているんだろうかと思っていたが。カンヌのめがね屋の店員だった彼女は、今はフリーランスのスタイリストみたいことをしている。もとよりエキセントリックな人ではあったが、その生活はアナーキーだ。いろいろ彼女の生活について、おもしろい話、興味深い話を聞いた。
レストランは彼女の家の近所、ニース駅の北側の庶民的な地域だ。レストランもその界隈もとても気楽で、穏やかな活気があって雰囲気がいい。
帰りはトラム。腐敗したキリストのような雰囲気の頭のおかしい人が、目の前にたって踊りながらブツブツなんか言っている。匂いがひどかったし、触られたらいやだなと思ったので、車両を移動した。
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