2023年8月13日日曜日

2023/8/12 ニース第14日

暑い日だった。昨日金曜日で学校のプログラムはすべて終了である。ヨーロッパ諸国の受講生の多くは研修が終わった当日かその翌日には帰国するのだが、東京から20時間かけてニースにやってきた我々としては研修終了の翌日に帰国というのはもったいない気がするので、研修終了日と帰国日のあいだに一日間の予定フリーの日を置いた。

今日は私の企画、希望者のみ対象でニースから20キロほどの山間に入ったところにある高台の城壁町、サン=ポール=ド=ヴァンスに遠足に行った。サン=ポール=ド=ヴァンスはニース近郊で人気のある観光地の一つだ。城壁に取り囲まれた石造りの小さな村の景観はピトレスクで、街中には数多くのレストラン、画廊、お土産物屋がある。この町はシャガール終焉の地でもあり、海を望む村の墓地にはシャガールの墓がある。また町から歩いて20分ほどのところには、ホアン・ミロをはじめとする現代美術の傑作のコレクションで知られるマーグ財団美術館がある。
ところがニースからサン=ポール=ド=ヴァンスに公共交通機関で行こうとするとこれが案外大変なのだ。ここには過去数回来たことがあるのだけど、トラムの新設やバス路線の廃止などで、行こうとするたびに行き方が変わる。7、8年前に最初に行ったときには、ニースの海岸沿いのメリディアン・ホテルの近くのバス停からサン=ポール=ド=ヴァンス行きのバスが出ていた。このルートで2回ほどサン=ポール=ド=ヴァンスに行ったと思う。3年半前に言ったときにはニース市街から空港方面に伸びるトラム二号線が完成していた。その影響でニース市内からサン=ポール=ド=ヴァンスへのバス路線は廃止になり、ニースから空港近くのパーク・フェニックスまでトラムで行き、パーク・フェニックスからサン=ポール=ド=ヴァンス行きのバスに乗るというルートになった。
数日前にサン=ポール=ド=ヴァンスの町の公式ウェブページで町へのアクセス方法を確認したところ、3年半前と同じく、ニースからトラムでパーク・フェニックス、そこから400番のバスに乗ってサン=ポール=ド=ヴァンスに行くと記されていた。リンクが張られていたバスの時刻表も確認して、これで万全と思っていたのだけど、昨日昼に変な予感がして急に不安になった。ニース駅前にニースのバス・トラムの営業所があったので、そこに行って紙媒体の時刻表を貰って、さらにルートも再確認しようと思った。ところが営業所にはパーク・フェニックスからサン=ポール=ド=ヴァンスに向かう400番のバスの時刻表がないのだ。窓口の人に聞いたところ、400番は655番に変更になった、今はSNCFの駅であるカーニュからサン=ポール=ド=ヴァンスに行くバスに乗ると、ウェブ上で確認した情報とは異なることを言う。Google mapで検索すると、655番のバスを使ってのサン=ポール=ド=ヴァンス行きのルートは表示されず、カーニュ駅からタクシーないしUberを呼ぶという風になっていた。トラム/バス会社の担当スタッフが言うことなのだから間違いはないと思うのだけど、今ひとつ釈然としない。営業所から1分ほどのニース駅前にあるニース市観光案内所でさらに念のために確認することにした。そこでようやく、パーク・フェニックスからサン=ポール=ド=ヴァンスに向かう400番のバスは数ヶ月前に廃止され、その代わりにカーニュ駅からサン=ポール=ド=ヴァンス方面に行く655番バス路線が新設されたことがわかった。ニースからサン=ポール=ド=ヴァンスに公共交通機関で行くには、まず鉄道でニース駅からカーニュ駅まで行き、カーニュ駅から655番のバスに乗る。しかしこの「標準的」ルートはネット上ではなかなか出てこないのだ。帰宅後調べて見たところ、マーグ財団美術館のサイトにはこの情報が掲載されていた。
学生には9時集合と伝えていた。9時14分発のカンヌ方面行きの各駅停車に乗る。これを逃すと次の列車は40分後になる。
ニース駅舎には8時40分ぐらいについて、今日、サン=ポール=ド=ヴァンスへのツアーに参加する学生の分も含め、チケットを購入した。ニースの駅舎には数年前から入場時に自動改札になっていて、チケットに記載されたバーコードをスキャンしなければホームに入れなくなっているのだが、こ自動改札のスキャナーの精度がひどくて、何度やってもバーコードを読み取ってくれないことがしばしばある。先週の遠足では、学校の引率スタッフであるローラがこのスキャナと格闘しているうちに予定の列車に乗れなかった。今回、私が購入したチケットもバーコードを読み取ってくれない。改札の横にあるカメラ付きインターフォンで駅員に状況を説明して、改札を開放してもらった。
カーニュからサン=ポール=ド=ヴァンス方面行きのバスは、途中停留所にほとんどバスが停車することがなかったため、思っていた以上に早く目的地についた。サン=ポール=ド=ヴァンス村に行く前に、道をはさんで別の側の山のなかにあるマーグ財団美術館に行った。今回はたまたまモントリオール出身の抽象表現主義の画家、ジャン=ポール・リオペルの特別展をやっていた。モントリオール美術館ではごく数点しかリオペルの作品を見ることができなかったが、南仏の私立の美術館ででこれほどの規模のリオペル作品に出会えるとは。大規模な秀作がそろった見応えのある展示だった。

ミュージアムショップでリオペル展の図録とミロの作品の絵柄のTシャツを購入した。マーグ財団美術館には1時間ほど滞在した。美術館からサン=ポール=ド=ヴァンス村に移動し、観光案内所で町の地図を貰った後、観光案内所のすぐそばにあるレストランで食事を取った。私は牛肉ミンチの入ったラビオリの赤ワインソース。google mapの評価は高かったものの、典型的な観光地の観光客向きのレストランだった。かなり割高、味は普通というか平凡。食後、村の中心部にあるフォロン礼拝堂と郷土史博物館を学生たちと一緒に見てから、バスの時間まで自由行動とするつもりだったが、ちょうどフォロン礼拝堂受付の昼休み時間だった。1時間後に戻って来ることにして、一度解散した。そんなに長い距離は歩いていないのだが、今日の町歩きは日差しが強くてバテた。1時間後、まずフォロン礼拝堂を見る。礼拝堂の内部を装飾する小さなタイルによるモザイク画がベルギー出身でカンヌに居住していた画家、ジャン=ミシェル・フォロンのものだ。フォロンはオレンジや黄色を基調とした明るいパステル調の色彩による幻想的でユーモラスな絵画で知られてた画家で、日本でも二回ほど展覧会が行われたことがあるはずだ。この礼拝堂の装飾では、サン=ポール=ド=ヴァンスの遠景モザイク画がそのスタイルで表現されている。礼拝堂の奥側と手前には彫刻もあった。左右の壁面や天井は淡いパステル調の色彩で可愛らしいイラスト風の絵が描かれていた。礼拝堂の向かいの建物は、郷土史博物館になっていて、マネキンによって表現された町の歴史の展示はかなりおもしろいのだけど、今回は臨時休館だった。
フォロン美術館のあと、バスの出発時間まで自由行動とする。
帰りのバスは運転手の頭がおかしかった。普通、ニースのバスの運転手は不正乗車のチェックは行わないのだが、この運転手はチケットなしの乗車客をチェックしていて、一通り乗客が乗り込んだあとで「金を払ってないやつがいる。無賃乗車の人間はすぐにこのバスから降りてくれ。降りないのであれば私は車を出発させない」と運転エリアから出て乗客に向かって大声で言った。一人の若者が出ていったが、「まだもう一人、いるはずだ!」と言って、乗客一人一人を恫喝しながらチェックしはじめた。フランス語のわからない英語話者観光客がどうやらお金を払わずにバスに乗ってしまったらしい。その乗客を前に呼び出し、色々言っている。乗客は英語しかできないのでオロオロしていた。すると私の隣に座っていたヨルダンと描かれた赤いユニフォーム(サッカーかな?)を着ていたおばさんが、運転手に向かい「検札はあんたの仕事じゃないだろ。早くバスを出しなさい」と前に出て、運転手と激しい調子でやりとりをはじめた。彼女は英語ができたので英語話者乗客をこの狂った運転手から助け出そうとしていた。運転手もぎゃあぎゃあ言っていたが、結局英語話者乗客はこのヨルダン人の婦人のおかげでバスに乗ることができた。
しかしその後の運転手の運転の荒いこと、荒いこと。いちいち急ブレーキ、急ハンドルで、車体をガンガンゆらしながら、麓の町へ下っていった。
カーニュからニースへのローカル線の車内では、珍しく検札官に遭遇する。怖そうな女性数名とごつい男たちが、チケットを一人一人確認していく。私たちはチケットを購入していたので問題はなかったが、同じ車両で二人、無賃乗車で問い詰められている乗客がいた。
4時半頃にニースに戻る。私はいったん家に戻る。今日の夕食は家主のAnnickと彼女のパートナーと一緒にレストランで取ることになっていた。家に戻ってシャワーを浴びると急激に眠気が襲ってきた。20分ほど寝る。
夕食は車でアンティーブの手前の町にある港に行った。個人所有のレジャーボートが並ぶこの港には、多数のレストランが連なっていた。本日のおすすめメニューに「かえるの脚」があったので私はそれを選んだ。フランスでは蛙を食べるとは聞いていたが、これまでレストランのメニューでカエル料理を見たことがなく、食べたことがなかった。カエル自体は日本の焼き鳥屋で注文して食べたことがある。カエル料理はカエルの脚に小麦粉をまぶして、ソテーしたものだった。ハーブや塩こしょうで味付けしてある。鳥のささみとうさぎの中間みたいなあっさりした味だった。まあこんな味だろうなとは思っていたとおりの味。普通に美味しいけれど、敢えてまた注文したいとまでは思わない。でもフランス料理のカエルをようやく食べることができてよかった。
デザートを食べているときに、アンティーブの海岸から花火が上がった。20分ぐらい花火は上がっていたと思う。私にとってはニース滞在最後の夜を締めくくる洒落た演出になった。

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