帰国の日。我々が乗る便は15時55分ニース発だが、なにかあったときの用心のため、3時間前に空港に到着するように学校の送迎担当者に伝えておいた。送迎担当者は車で私たちが滞在している各家庭を回り、空港に送り届ける。正午頃に私の家に来ることになっているので、実質的に今日は何もできない。朝飯食べて、シャワーを浴びて、荷造りをしただけ。時間通りに送迎担当者はやってきて、12時半には全員が空港に集合した。エミレーツ航空のカウンターはもう受付を開始していて、私がパスポートを提示すると「ああ、日本人の11人のグループですね。あなたがリーダーですか?」とちゃんと話が通っている。搭乗チェックインは航空会社や空港、チケットの種別によってやりかたが違うのだが、今回は事前にオンラインチェックインできないとのことだったので、ちょっと不安があった。
エミレーツ航空のエコノミーは一人あたり30キロまでの荷物を無料で預けることができる。通常、エコノミーの場合は23キロまでが無料の航空会社が大半なので、エミレーツはかなり気前がいい。一人、書籍類を大量に購入したため、スーツケースの重さが34キロを超えた学生がいた。団体で飛行機に乗り込むので、一人、二人の荷物が規定重量オーバーしても大目には見て貰えるのだが、32キロ以上の荷物は預かることができないという規定が航空会社にあるため、その学生は数キロ分の書籍は機内持ち込み手荷物に移し替えた。機内持ち込み手荷物の重量制限は10キロなのだが、これはよっぽど大きな荷物を持ち込まない限り、計測されたりはしない。
搭乗カウンターあたりの様子が分からないので、手荷物検査と出国手続きをさっさとすませたのだが、私たちの搭乗カウンターのあるフロアはサンドイッチ屋とスタバとお土産物店が一軒あるだけだった。90分以上、冷房のあまり効いていない搭乗フロアで時間をつぶすはめになった。私はサラミハムのサンドイッチとクロワッサンを購入して、それを昼食とする。
ニースからドバイまでは6時間。ドバイで成田行きに乗り換えだが、ドバイの手荷物検査を終えたあとで学生一人が携帯を機内に忘れたことに気づいた。すぐに戻ってこないかもしれないなと思ったが、空港警察の人が取りに行ってくれて、30分ほどで置き忘れの携帯を取り戻すことができた。エミレーツ航空は素晴らしい。ドバイの乗り継ぎは2時間弱だった。私はたいしてお腹は減っていないのに、ハンバーガーを食べてしまった。
ドバイから成田までは9時間半のフライトだ。長い。3時間ほど眠ったか。食事は二回出た。映画は阿部サダヲが出演している『死刑にいたる病』を見た。サイコパスもの。
日本時間17時半頃、ほぼ予定通りの時刻に成田に到着。解散のあと、私は1時間ほど空港で時間をつぶし、1900円の池袋行き空港リムジンを使って帰宅した。
色々なことが凝縮された二週間で、日本を出発したのがはるか前のことのように思える。今回は三年半ぶりの実施で、夏に学生をニースに連れてきたのは初めてだった。自分としては「試運転」の感じもあった。学校の状況も変わっているかもしれないし、新型コロナ禍を経験した学生のメンタリティも3年半前の学生たちとは違うだろう。再実施のためには、団体用の航空チケットの手配を依頼する代理店や学校とのあいだで必要となるけっこう膨大なやりとりを再整理・検討しなくてはならなかった。
本当はこれまでのように二月ないし三月に実施したかったのだが、今年は私がケベックに行くことになったため、二月の実施はできなかった。もしケベック行きがなかったとしても、新型コロナへの対応が今よりもずっと過敏だったので、実施にはいろいろ困難が伴っただろう。この研修は私個人が企画して、学校や代理店と打ち合わせのうえ、プログラムを設計しているオーダーメードのものだ。いくつかの偶然が重なってこの研修を八年前(いや、もっと前からかな?)からやっているのだけど、こういう研修は私しかやらないだろうし、私にしか出来ないだろうと今回、改めて思った。
学校との交渉とか学生を病院に連れて行ったりとか、いろいろ大変だが、こうした面倒なやり取りを通じ自分がフランス社会のリアリティとじかに向き合わざるを得ないことで、フランス語教員あるいはこういうイベントのコーディネーターとして確実に鍛えられているのを感じる。またこうした「格闘」は私にとっては実はおもしろいもの、楽しいものという側面もあり、ゲームの困難なタスクを消化していくような達成感もある。
フランス語教員としてはやはり一年に一度は、フランスに行って、タフな状況でフランス語を利用する機会を持つことは重要だろう。こうした経験をしているからこそ、教室で自信をもってフランス語やフランス語圏の文化について、語り、伝えることができるように思うからだ。
参加する学生たちにとってもかなりタフさが要求される環境でのフランス体験だったと思う。この研修はきわめて教育的な研修であると思う。教室で学んだフランス語の向こう側には、その言語を使って生活を営んでいる人たちがいて、そこではわれわれの常識や経験とは異なる日常や文化が存在している。この研修はそうした現実を体験するための機会だ。これまで経験していないであろう世界を自分の目で見て、そのただなかに身を置くことになるこの二週間の研修は、学生たちに自分と世界のありかたについての検討の機会を提供するものであり、彼らに何らかの発見をもたらすきっかけとなって欲しいと思う。
今回、再開できて今後もやっていける目処はついた。ただ次回の研修は例年通り、二月末か三月に実施したいと思う。夏のバカンスシーズンは航空券、滞在費とも高くつくし、それにニースの暑さも想定以上だった。東京の酷暑に比べると、最高気温32度ほどで空気も乾燥しているので穏やかだともいえるのだけど、夏の強い日差しのなか、町歩きをするのは思っていた以上にきつかった。学生たちが後半、バタバタと体調を崩したのは、この暑さのせいもあったのではないか。また夏はバカンスを兼ねてニースにフランス語を学びに来る人が多く、学校のスタッフもかなり慌ただしく、疲れている様子があったので。
いつかケベックにも学生を連れて行ってこのような研修をやりたいと強く思うのだけど、ケベックがそもそもほとんど日本で知られていないので、参加を呼びかけても人が集まりそうにないのが難点だ。少人数で採算度外視ででも一度、試験的にやってみたいなとは思う。やはり現地に行かなくてはねえ。
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