二週目の最初の日。学生のなかに体調を崩す者が続々と出ている。私は今のところ、幸い、疲れているけれど、元気。
昨日から調子が悪かった男子学生一人が発熱のため、学校に出てこれなかった。
また別の学生は学校には来ていたけれど、吐き気と全身の倦怠感があるという。
午前中はニースから東に20分ほど電車に乗ったところにあるボリュ=シュル=メールに学校企画の遠足で行く予定だった。モナコの手前にある小さな町だが、高級ホテルや高級ブティック、カジノがあるお金持ち旅行者の町でもある。町自体には特に見所はないのだけど(景観は美しいが)、この町には20世紀はじめに美術史家と考古学者が歴史的考証にもとづいて再現した紀元前4世紀のギリシャ貴族の別荘がある。綿密な学術的成果に基づいた「複製」であるだけでなく、美学的にも恐るべき完成度の建造物で、個人的にはニース近郊の観光ポイントのなかで訪れる価値が高い場所だと思う。
9時35分ニース発の列車に乗ると、学校のエクスカーションの担当者は言っていたのだが、列車の予約でなにか問題が生じたらしく、結局、今日はボリュ=シュル=メールに行くことができなかった。ボリュ=シュル=メールへの遠足は金曜日の午前に延期されることになった。
午後の授業開始は14時45分からなので、遠足の突然の中止で、4時間以上の空白時間ができてしまった。
9名の学生のうち、2人は本屋に行ったらしい。私は残りの7人の学生とニース随一の高級ホテル、ネグレスコ・ホテルに行った。このホテルの広大な円形広間は学生たちにぜひ見せてみたい場所だった。ただこの円形広間を見るには、ネグレスコ・ホテルの客にならなくてはならないのだが、ネグレスコ・ホテルのカフェでお茶を飲むだけでもOKだ。珈琲が10€とかなり高額だが、奥の円形大広間見学のための費用も含まれていると思えば、それほど高くないだろう。カフェも内装も高級ホテルだけあってシックだ。3人と5人に分かれて座った。私は3人組のテーブルでカプチーノを注文した。珈琲にはナッツやチョコレートなどのおつまみがつく。私とは別のテーブルについた5人はマカロンやデザートも注文したようだった。飲み物を飲んだあと、奥にある円形大広間で20分ほど過ごす。調度品も広間の周囲に展示されている美術作品の数々も一級品だ。
昼食は今週から学校の近くのcantine 食堂でとる。cantineというと大学食堂や社員食堂を指すが、このcantineはAzurlingua他、この食堂の利用契約をしている周辺の幾つかの会社や官庁のスタッフが利用している。カフェテリア形式で、毎日メニューが代わり、前菜、主菜、副菜、パン、デザートを一つずつ選ぶことができる。ここの昼食はボリュームがあって美味しい。先週は工事でこの食堂を利用出来なかった。
私は三年半ぶりにこの食堂を利用したのだが、食堂スタッフのおばさんが私のことを覚えていて、声を掛けてくれたので嬉しかった。この食堂スタッフの人たちには、なぜか私が連れてきた日本人学生の評判がとてもよかった。確かに行儀のいい子ばかりではあったけど、日本人はニコニコ笑顔で挨拶するのが感じよかったらしい。
土曜日のカンヌ遠足のセント=マルグリット島往復の船代は、学校が払い戻してくれることになった。午前中にエクスカーション担当の若い女性スタッフに話したときは、「一般参加者が申し込むカンヌ遠足には島への渡航は含まれていない。あなた方グループが島に行くことになっているなんて知らなかった」と言っていたので、これはけっこうハードな交渉をしなくてはならないかと覚悟を決めていたのだが、もう一つ上の責任者に話し、船代の領収書を渡すと、あっさり現金で払い戻してくれた。もう一件、私たちのグループのニース滞在を土曜日までと各家庭に伝えていたことが、今朝、私の滞在先のマダムとの会話でわかり、日曜日までニースに滞在することをあらためて各家庭に確認しておいてくれ、というリクエストも行う。この確認作業は速やかに行われたことを帰宅後のマダムとの会話で知った。学校から電話がかかってきたとのこと。
午後は授業だったが、男子学生二人と女子学生一人が体調不良で学校を休んだ。疲れが蓄積している上、慣れない海外生活、他人の家での生活でストレスも大きいのだろう。男子学生二人の体調不良は、昨日、アフリカ料理屋で供された副菜、Attikéが原因である可能性が高いように思った。さっきネットで調べると、Attikéはタピオカの原料となるキャッサバを原料とするクスクスのようなものらしい。男子学生二人は、コートジボワール料理では定番のAttikéを副菜として選んでいた。というか一人は、自分でattikéを選んだわけでなく、ウェイターがコートジボワール料理のケジュヌを注文した私に供するはずだったAttikéを彼に出したのだ。私は自分に供された米をすでにケジュヌのスープに浸して何口か食べてしまっていたので、彼に「おまえは今日はattiké食べたらいいよ」と言ってattikéを心ならずも食べさせたのだ。もう一方の体調不良の学生のattikéを一口私は食べたのだが、そのとき「んん。クスクスみたいなものとウェイターは言っていたけど、なんか不思議な酸味があるなあ」と思った。あんまり美味しいと思えなかったので、自分は米でよかったと思ったのだ。もしかするとあのアッティケは作り置きで、ちょっと悪くなっていたのかもしれない。あの香りと酸味は腐敗が原因だった可能性がある。
午後の授業は先週に引き続きNicola先生のB2レベルの授業を聴講させてもらう。今日は前半は先週とりあげた語や表現から各自が一つずつ選び、その語・表現の意味の説明をし、その説明からその語・表現が何かを当てるというクイズをやった。後半はテレビのニュース番組のオープニング映像の聞き取りと内容把握、そしてそこで使われている語・表現を拾った。
授業が終わるのは午後6時。日が沈んで暗くなるのは8時半頃だ。すぐに家に戻るのはもったいない気がしたので、海岸まで歩き、海岸沿いの道を旧市街までぶらぶら歩いた。昨日のカンヌのサント=マルグリット島の透明度の高い海も美しかったが、淡い水色と濃い青がコントラストをなすニースの海も思わず嘆声をあげてしまうほど美しい。そして旧市街の町並みはやはりかっこいい。
今日の夕食は家で食べた。Annickがアルジェリア生まれの母親から受け継いだというクスクスを食べた。アルジェリア風のクスクスは初めてだったが、これが絶品だった。金曜夜に食べたChez Michelのクスクスに劣らない素晴らしいクスクス。Annickの母親はアルジェリア戦争のときにフランスに帰国したpied-noirだ。彼女は16世紀にスペインからアフリカに移住したユダヤ人の子孫だったが(この時期、スペインで大規模なユダヤ人迫害があって、多くのユダヤ人がフランスなど近隣地域に逃れた)、フランスでポーランド人の男性と出会い、結婚した。Annickの父はポーランド人なのでカトリックだった。カトリックとユダヤでは宗教的結婚はできない。二人は役所で非宗教的な民法上の結婚 mariage civil をし、その後お互い、宗教活動の実践をやめたとのこと。
調子の悪い学生たちのうち、特に男子学生一人の高熱が続いているという連絡が入り、心配になる。Annickに相談して、対応策を練る。
明日の朝まで様子を見て、熱が続くようなら、病人の学生には彼の住んでいるファミリーにタクシーを呼んでもらって、救急対応病院まで来て貰う。私が住んでいるところは救急対応病院の近くなので、私は病院に先に行って学生を待ち、学生が到着すると救急対応窓口まで連れて行くことにする。タクシー代や診察費などは海外旅行保険で補填されるはずだ。
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