8時間以上たっぷり眠っているのだが、頭にはまだもやがかかっているような感じですっきりしない。学校の授業の休憩時間である10時15分に学校に行く。
学生たちに午後のカーニバル花合戦のチケットを配布していると、なぜか重苦しいうっとうしい気分から解放されていることに気づく。さっきまで頭にもやがかかっていたような感じだったのに、それがすっと晴れた感じだ。
医者の診察予約は11時45分だった。学校から医者までは歩いて20分ほどの距離がある。昨日午後はこの距離を早足で歩いてげっそり疲れてしまったのだが、今日はなぜか大丈夫なような気がして、歩いて医者まで行くことにした。息切れしない。昨日までの様子を思うとなんでだろう?と不思議に思う。
前にも書いたようにフランスでは個人病院は集合住宅のなかにひっそりあって、「○○医院」などという看板は出ていない。私の予約した医師は二階の右手の扉なのだが、地味なプレートがドアにあるだけだ。そこに入ろうとすると、上から階段を降りてきたおばあさんが、「ミスターティリはどこですか?」と私に聞く。
「ティリーというのは人名ですか?私にはわからないのですが」
「ティリーはここだというを聞いてきたのです」とおばあさんは言う。フランス語は片言だ。英語で話しかけてみたら、フランス語のほうがまだ通じそうな感じだった。イタリア人の老婦人だった。
一階には郵便ポストが並んでいるので、そこまで一緒におりて「ティリ」を探すことにした。ティリが一階で営業している理学療法士(?)であることが判明。「現地」の人でも目当ての医院を見つけるのは大変だ。
さて私の医師は女性なのだけど、口調は冷静だが、「暖かな」応対とはまったく無縁の人だ。googleのレビューを見ると、おそらくこの素っ気なさゆえに、低評価が並んでいる。愛想というのが全くない人なのだが、案外丁寧にこちらの話は聞いてくれるという印象はある。今回も問診と触診があったが、前回の見立て同様、やはり狭心症の可能性は極めて低いとのこと。確言という感じだったので信じていいだろう。それではこの不調の原因はなにかと言えばわからないので、血液検査のリクエストを出して貰うことになった。医師が作成した検査リクエスト票を持って、町中に数カ所あり早朝からやっている検査場「ラボ」に行く。採血検査の前は12時間の絶食が必要とのことで、検査場に行くのは明日の朝になる。検査の結果はメールで送られてくるようだ。それを持ってまた医師のところに戻り、その後の処置が決まる。薬が処方されたり、あるいは専門医を紹介されたりというプロセスだ。
合理的なシステムではあるが、そういうものだと事前に知っていないと、旅行者が診察を受けるとなると戸惑うだろう。海外で医療を受けるというのはなかなかハードルが高い。
「不調」といっても昨日午後の調子の悪さを思うと、嘘のように心身共に解放感がある。病気感がない。今朝はカーニバルの花合戦の自分のチケットは無駄になるのではないかと思っていたが、こんな感じなら花合戦見物も可能ではないかと思い、花合戦の会場に行くことにした。会場に行く前に、旧市街のカンボジア料理屋で昼飯を食べた。何となくアジアっぽいものが食べたかったのだ。鶏肉が乗った焼きそばのようなものを食べた。味が濃くて、あまり美味しくなかった。外食が高くて、円安なので、こんなスナックが2000円ぐらいしてしまう。こちらで飯を食べるときは円換算しないほうがいい。ただカンボジア料理屋のお兄さんは、さきほど私が診察を受けていた女医とは対照的に、微笑みをたたえたほがらかな感じのいい青年だった。一一年前に両親とともにフランスに移住し、この店は一月半前にオープンしたばかりだと言う。このカンボジア料理屋の前にあるタピオカティー屋は中国系のお兄さんで、カンボジア料理屋の前で入ろうかどうか迷っていた若い中国人女性二人組に、中国語で話しかけて、この店に案内していた。いい奴だ。カンボジア料理屋のお兄さんは中国語は話さない。
ニースのカーニバルの花合戦は、基本、いろんな山車のパレードなのだが、地中海で春を告げる花であるミモザのほか、花を満載した山車に乗ったきれいなお姉さんが、観客に向かって花を投げるというのがメインの趣向だ。椅子席は満席だったため、立ち席にしたのだが、パレードが行進する沿道の前の方はすでに人で埋まっていて、パレードからちょっと離れた場所でしか見られない。パレードは2時間弱続くが、30分ほどで飽きてしまった。ニースのカーニバルはニースに2月に来るたびに、学生たちを連れて見に来ているのだけど、個人的には一度見れば十分かなという感じのイベントだ。ニースのカーニバルが始まったのは1873年。商業的観光のカーニバルのはしりだ。世界最大規模のカーニバルであるリオのカーニバルももともとはニースのカーニバルに触発されてはじまったものだ。「巨大頭の人形」や「花の女王」など、古代中世以来の民俗的要素をひきついだ部分もあるが、「有料公演」として実質的に外部の人たちのためのお祭りになってしまっているのが、私としてはつまらないなと思ってしまう。最近は観光産業とスペクタクルを研究テーマにしようと準備しているので、そういう観点からの関心はあるのだけど。
カーニバルの花合戦の会場は、ニース随一の高級ホテル、ネグレスコ・ホテルの近くだ。コロニアルな、いかにもベルエポックっぽいブルジョワ文化の趣味がこのホテルには反映されている。このホテルの大広間が素晴らしいのだ。地元の人たちにも敷居が高くてちょっと近づきがたい雰囲気のある高級ホテルだが、私はニースに来るたびにこのホテルのカフェでお茶を飲んで、そのあと大広間を見物するというのをやっている。学生たちにニースで「どやっ」と見せたい場所の一つなのだ。
「花合戦が終わった後、ネグレスコ・ホテルのカフェに一緒に行く人いますか?」と今回の研修旅行のLINEグループに投げると、結局12人+私の全員でホテルにぞろぞろ行くことになった。格式ある高級ホテルなので、大人数団体で入り込むってのは、私としては実はちょっと心理的抵抗感があるのだが、まあしかたない。
ネグレスコ・ホテルのカフェは全部で五〇席ぐらいでそんなに大きなものではないのだけど、幸い我々全員が入ることができた。コーヒーは一〇ユーロだ。現在の円安レートだと1600円ということでえらく高いコーヒーなのだが、このカフェの雰囲気を味わい、大広間、豪華な内装、展示されている美術品の数々などもこれで楽しむと考えれば、そんなに高いとは言えないのではないか。
残念ながら今日は大広間でイベントが行われるらしく、あの開放的で贅沢な空間がカーテンで遮られていたのは残念だった。ホテルの従業員に見つかると注意されるような気もしたが、今回はエレベーターで最上階の五階まで上って、各フロアを見て回った。各階ごとに内装のテーマが違うのだ。一泊三万ほどで泊まれる部屋があると思っていたのだがそれは私の勘違いで、表の看板を見ると一番安い部屋で一泊900ユーロだった。
ネグレスコ・ホテルを見学した後、学生と別れs、家に戻る。体調は、結局ずっと、普通だった!これがずっと続けばいいのだが。
夕食はカリフラワーのグラタンと羊肉のステーキ。
明日の朝は早起きして、近所のラボで採血。
0 件のコメント:
コメントを投稿