2026年2月28日土曜日

ニース研修2026春 第12日

 

2026年2月26日(木)第12日

午前8時半まで寝ていた。昨夜寝るのが深夜2時前だった。なんでそんな夜更かししたのか覚えてない。なんのかんの細々、事務的な仕事がある。「あ、あれもやんなきゃ」と思い出すたびにこなしているのだけど。そもそもパソコン、ネットというのは、やろうとした作業をついつい中断させ、脇道にそらせてしまうのでやっかいだ。まあこんな旅日記を書くのも毎日けっこう時間を取られているのだけど。

昨日は昼、夜といくらなんでも食べ過ぎの日だった。胃の調子が心配だ。この2年ぐらい、胃腸が弱くなった。出国前にガスター10を購入しておくつもりだったのだけど、買い忘れている。胃薬でまともに効く市販薬はガスター10ぐらいしかないと思う。整腸剤は気休めにしかならないが、これも荷物のなかに入れたつもりが持ってくるのを忘れていた。

とにかく胃と体を休めた方がいい。疲れているはずだ。今日は午前中は家にいた。朝ごはんをごく軽く食べて、シャワーを浴びて、一番憂鬱で厄介で重要度が高い3月に公刊される研究論文集の目次の改訂作業に取り組む。ChatGPTなど複数のAIに相談しながら。

今日の昼はクスクスの日だった。ニースで行きつけのクスクス屋は二軒ある。一つは数日前に男子学生たちと行ったBédouin。もう一つはガンベッタ通り沿いにあるLa Gouletteという店だ。ここはクスクスも美味しいし、安いし、そして店員の人たちの雰囲気がとてもいい。以前、ここに来たときに、小さい子供連れの客がいて、子供がぐずったりしていたのだけど、店のスタッフは楽しそうにその子をあやしたりしていて、いい感じだなと思った。Bédouin同様、チュニジア系のクスクスの店だ。以前、もう一軒、モロッコ系のクスクス屋で好きなところがあったのだが、その店は数年前に閉店してしまった。La Gouletteは家族経営の小さな店で、テーブルは6つほど。昨夜、一応、私を入れて5名で予約していた。

今回来た学生は18名で、外食などはできるだけ公平に、全員とご飯を食べに行くようにしている。私とご飯を一緒に食べに行くことが、学生たちにとって嬉しいのかどうかはわからないけど。全員一緒に食べに行くとなると、私を入れて19人を受け入れてくれる店を探し、事前に予約しなくてはならない。これはかなり面倒で、飯も美味しいものを食べられないので、4〜5人ずつ誘って外食している。3年前までは昼は学校近くのカフェテリアで全員、一緒に食事を取る機会があったのだが、物価上昇、円安などで費用が高騰したので、昨年からは昼は各自で取るということにした。メンバー全員で一緒にご飯を食べる機会がなくなったのは残念だったし、学校が契約しているcantineの飯のクオリティはかなり高いものだったのだけど、その分、昼に外食できる機会が増えた。


私を入れて5名で予約をしていたのだが、うっかりこれまで私が飯に誘っていない学生を入れていないことに気づいた。まあ私のようなおっさんと一緒に飯を食ってもそんなにいいことはないと思うのだけど、私はコーディネーター兼教員なのでできるだけ均等に学生たちとは接しなくてはならないとは思っている。小さい店ではあるがそんなに大人気、大混雑という店ではないし、テーブルは偶数席が基本なので5人が6人になっても問題はないだろうと思い、うっかり誘い忘れた学生も一緒にクスクス屋に行くことにした。ただ予約を入れたのが昨夜、ネットからだったので、店がちゃんとそれを把握しているかどうかは若干の不安はあった。ネットでの予約は便利ではあるが、案外店が予約をちゃんと確認していないこともある。レストランの予約は電話が確実だ。幸い昨夜の予約はちゃんと店は受け取っていたようで、われわれの席は用意されていた。5人が6人になっても問題ないとのこと。この店も毎年学生を連れてきているので、店の人は私のことは覚えてくれていたようだ。

この店のクスクスは、先日男子学生と行ったBédouinよりも5ユーロほど安い。今時のフランスで20ユーロ以下でクスクスを食べられるのはありがたい。学生たちにもおおむねクスクスは好評だったよう。野菜のたっぷり入ったスープをかけて食べるクスクスはたいていの日本人は好きだと思う。私は今回もメルゲーズを添えることにした。学生たちは私が薦めた仔羊肉を選択した。クスクスはつい食べ過ぎて、腹が膨れてしまう。用心して食べ過ぎないようにしたので、ちょうどいい腹具合だった。

クスクス後、一度家に戻る。今夕は、今回のニース滞在で私にとっての最大イベント、モンテカルロ歌劇場でのオペラ《ペレアスとメリザンド》の公演を見に行くことにしていた。この公演は昨年の今頃、知人のオペラ研究者のSNSでの投稿で知った。メーテルリンクは一時期関心を持って、論文を書くところまでにはいかなかったけれど、かなり勉強していた。『ペレアスとメリザンド』の原作は何度か通読しているし、パリのオデオン座での演劇公演は見たことがある。しかしドビュッシーによるオペラ版は、DVDでしか見たことがなかった。公演日はちょうどニースでの滞在日である。これまでモナコ歌劇場に私は行ったことがなかった。ニースとモナコは列車で30分ほどの距離だが、フランスは公演開始時間が20時と遅いので、モナコで夜、公演を見て、そのあとニースに戻ってくるのは難しいと思い、これまでモンテカルロ歌劇場での観劇は検討したことがなかったのだ。しかし演目が《ペレアスとメリザンド》となれば見に行ってみたい。演出家はモナコの演出家で私の知らない人だったが、指揮者の山田和樹の名前はヨーロッパで活躍する注目株の指揮者として聞いたことはある。そしてパリのオペラ・ガルニエの設計者のシャルル・ガルニエが手がけた歌劇場での観劇体験は魅力的だった。高くつくが、列車がなくても、公演終了後、タクシーを使えばニースまで戻れるだろうと考えた。

この公演はチケット代も高額なので、私ひとりで見に行くつもりでいたのだが、もしかして学生のなかに見に行きたいという人がいるかもしれないと思い、研修参加学生に呼びかけてみた。ただし希望者がいたとしても、帰りの脚がタクシーになることを考慮して、2名限定とした。それで希望があった2名の学生と一緒にモナコにオペラを見に行くことにした。せっかく高額チケットを買って見に行く公演なので、事前にZoomで《ペレアスとメリザンド》の勉強会も行い、予習も行った。オペラのチケットは10月に予約した。客席が500席という小さなオペラハウスだが、チケットは確保できた。チケット代は100ユーロだった。日本でも最近、商業演劇は15000円や20000円ぐらいの席があるので、それを思うとそんなに高額なチケットだとは思えない。

公演は20時開演だが、モナコ行きは16時にニースヴィル駅に待ち合わせとしていた。家に戻ってLINEを見ると、オペラに一緒に見に行く学生の一人から、もし時間があればモナコ大公御用達のチョコレート店、Chocolaterie de Monacoへ行きたい、というメッセージが入っていた。先日行った海洋博物館のすぐ近くにある店で、モンテカルロ歌劇場からは遠いが、行けないことはない。ただ坂道を歩いて上るのはかなわないので、モナコ駅についたらタクシーでその店の場所まで行くことにした。Geminiを参照するとモナコ駅のタクシー乗り場からすぐにタクシーを拾えるみたいなことを言われたのだが、実際にはタクシー乗り場にタクシーなんか停まっていなかった。電話でタクシーを呼ぼうと思ったのだけど、モナコ駅のどの出口付近に来てもらえばいいのか、その出口あたりの地名がわからない。Uberなら呼んだ位置に、こちらが場所名を言わなくても来てくれるのだが、モナコではUberが使えないのだ。結局駅の出口周辺をうろうろした挙げ句、Google Mapの指示に従い、バスに乗ってChocolaterie de Monacoのある場所まで向かった。閉店30分前に店に入り、学生は目当ての商品を購入し、私ともう一人の学生もついでにという感じで、安めのチョコレートをお土産として購入した。


開演が20時、終演が23時を過ぎるので、開演前に腹ごしらえをしておかなければならない。港まで降りて、モンテカルロに上る坂道の出発点付近にあるハンバーガーショップで食事をした。値段は13ユーロぐらい。バンズも美味しかったし、肉の部分もちゃんと肉汁の旨みがあって美味しいハンバーガーだった。港のあたりから、モンテカルロに上る坂道がけっこう急勾配で長くてつらい。モンテカルロに上る公共エレベーターに何年か前に乗ったことがあるのだけど、その入り口があやふやで、この前の日曜にモナコに来たときは結局Google Mapの指示するまま、坂道を上って歩いて疲労した。今回は坂を上らず、海沿いの道を歩いてエレベーターの入り口を探すと、案外簡単に見つかった。エレベーターだと一気にモンテカルロの丘の上まで連れて行ってくれる。楽ちんだ。


カジノ・歌劇場の建物に入り、トイレに行って、クロークにコートを預け、19時20分ごろに歌劇場の入り口の扉が開いた。さあ、中に入るぞ、と劇場入り口に行くと、チケットチェックの男性スタッフが、「あなたのチケットは補助椅子(strapontin / ストラポンタン)なので、普通座席の人が席についた後になる。それまで入れません」と言う。これまで補助椅子座席だからといって、開場後に待たされるという経験がなかったので、「変なことを言うよな。早く中に入って劇場内部の装飾を見たいのに」と思って、「いつ頃入れるのか?」と聞くと、「一番最後だ。入れるようになったら呼ぶので、ホールでも見学していろ」とそのスタッフは言う。


なんか納得がいかず、ホールにたまっていた客席を誘導していた別の女性スタッフにチケットを見せて、「あの男性スタッフが私たちの入場を拒絶したのですが」と聞いたが、その女性スタッフは「いや、これは担当のあの男性スタッフが判断することなので」と言う。

開演15分前に、そろそろいいだろうと思い、もう一度男性スタッフに入場できるかどうか聞いたがダメだという。「こんな理不尽な扱いを受けたことはこれまでない。なぜストラポンタンだと入場できないのか理解できない」と言うと、「劇場の座席が詰まっていて、補助椅子の観客が先に座ると、後から来た観客が奥に行けなくなるんだ。入ったらわかる」と言う。私には依然、理不尽な扱いに思え、この男性スタッフがもしかするとアジア人の貧乏観客だということで嫌がらせをしているのではないか、などと不信感を持ったのだが、我々以外にも入場口の前で待機している観客が複数いて、「ストラポンタンですか?」と聞くと、「そうだ」と言う。「ストラポンタン差別ですね。ありえないこんな劇場」と言うと、苦笑いしていた。

開演5分前にようやく入場が許可される。学生のうち一人は離れた場所の席だったが、私ともう一人の学生は、なんと補助椅子とはいえ、舞台に一番近い座席だった。最前列である。こんな席でこれまでオペラは見たことがない。そしてモンテカルロ歌劇場では補助椅子を倒すと、ほぼ通路が塞がれる感じになっていて、男性スタッフが言っていたとおり、最後に補助椅子客を入場させないと客入れが非常に困難になることがわかった。休憩時間にその男性スタッフには「私が間違っていた。ごめんなさい」と謝っておいた。




シャルル・ガルニエの設計による劇場内の装飾の密度は強烈だった。劇場が小さい分、パリのオペラ座よりもさらに凝縮感がある。観客席と舞台の距離は近い。私たちの席は最前列だったので、すぐ先にオーケストラピットをのぞき込むことができた。舞台についての感想はあらためて別の場所に書くことにしよう。抽象的で直線的なデザインの美術が、場ごとに変わる舞台美術と演出は素晴らしかった。そして山田和樹指揮の音楽も舞台上の展開としっかりと連動した本当に見事なもので、指揮者が日本人であることが誇らしかった。そしてこの劇場空間。端的に言って、私のこれまでの舞台鑑賞経験の中でも十指に入る最高の劇場体験だった。これが100ユーロで体験できるなんて。わざわざモンテカルロ歌劇場に見に来て、本当によかったと思った。

終演は23時20分。昨日、ニースのOffice de Tourismeで、この日はマントン発23時40分の臨時深夜列車が出ることを確認していた。終演後、早足でモナコ駅に向かい、23時47分に到着。マントン発の列車のモナコ駅着は23時52分だった。けっこうギリギリである。こういうときはフランス国鉄の運行は時間通りだ。

ニースについたのは0時過ぎだった。駅から遠い場所に住む学生は、駅の近くでUberを呼ぶつもりだったのだが、最終バスに運良く飛び乗ることができた。もう一人の学生は女子学生だったので、家の近くまで送った。

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