2025/02/24(月)第10日
二週目の授業の開始日。特に大きな出来事はない日だった。体調を崩して午前中の授業を休んだ学生が一人いた。昨年は私がなぞの体調不良でかなりしんどい日が何日かあったのだが、学生で体調を崩す人はいなかった。たまたま頑強な学生がそろっていたのか。毎日かなりの距離を歩き回るし、毎日やることがつまっているし、ホームステイ生活はなにかと気をつかってストレスもたまるだろうし、食べ物も違うしで、体調を崩す人がいるのはしかたない。私は昨年は1月から4月にかけて謎の体調不良で、研修中もしんどい思いをしたのだが、昨年以外はむしろニースにいるあいだのほうが体調がいい。これはニース滞在中は、夜に寝て、朝に起きるという規則正しい生活をして、さらに適度に運動しているからだろう。
午前中は家にいて論文を進めていた。ADHDゆえになかなか取りかかる気分にならない。本当にやばい。いつも何か、締切りに追われている。昼はサラミ・ソーセージのスティックを囓り、板チョコを食べただけ。あんまりお腹は空かない。でもたいして食べていないけど、この「昼食」はハイカロリーだ。
午後のプログラムは、ニースの北東の高台、シミエ地区にあるマティス美術館とシミエ修道院に行ったあと、そのふもとにあるシャガール美術館に行くというもの。昨年、予約せずにシャガール美術館に行くと、入場まで2時間ぐらい並ばなくてはならなかった。それまではシャガール美術館に入場するのに、行列を作った記憶はなかったのだが。今年はその教訓を踏まえ、事前に団体入場予約したのだが、15時30分の入場回しか予約が取れなかった。本当はふもとのシャガール美術館を見た後、シミエの高台のマティス美術館、シミエ修道院を回りたかったのだが。ニース駅から10分ほど東側に歩いたところで5番のバスに乗って、まずマティス美術館に向かう。
シミエ地区は市街地の中心部からは離れているが、ニースの高台にあり見晴らしがいい。高級住宅街でもある。マティス美術館の付近には、古代ローマ時代の円形競技場(といっても半径50メートルほどの規模)跡と巨大な共同浴場跡がある。共同浴場遺跡は考古学博物館になっていて、その規模の大きさは壮観なのだが、フランス人は入浴施設には関心がないのか、いつ行ってもガラガラだ。私は好きな場所だが、今回は後ろにシャガール美術館の予約が入っているため、考古学博物館はあきらめた。
最初にマティス美術館を見る。マティスの大作や有名な作品をいくつか所蔵しているが、美術館の規模としては大きくない。30分か40分ほどで見て回ることができるだろう。マティス美術館の本館部分は赤茶色の壁と屋根が印象的な建造物だ。学生にはマティスの居住した館と説明したがこれは間違いで、美術館のウェブページを読むと、19世紀の貴族の別荘だった。一昨日に行ったニース美術館、昨日行ったヴィラ・ケリロスとロートシルト別荘、そしてラスカリス宮やマセナ美術館など、ニースとその近郊の主な美術館/博物館の多くは、ベル・エポック期の貴族や大ブルジョワの遺産を利用したものなのだ。マティス美術館は本館の柔らかなオレンジの照明がかっこいい。内装もマティスの作品を思わせるオレンジ系の色彩で統一されている。現在、休館中のニース現代美術館の所蔵作品であるイヴ・クラインの作品も数点展示してあった。マティス美術館には30分ほどいた。
マティス美術館のあとは、そこから歩いて5分ほどのところにあるシミエ修道院の教会に行った。バロック様式の装飾の祭壇と天井に描かれたフレスコ画は見応えがある。教会のあとは、修道院庭園に。この庭園からニースの東側を見下ろすパノラマが楽しめる。教会と庭園に合わせて30分ほどいたあと、歩いてシャガール美術館まで行った。下り坂だから楽だろうと思ったのだが、30分ほどの距離はけっこう長く感じた。
他のニースの美術館・博物館とは違い、シャガール美術館はニース唯一の国立美術館で、ニースへの観光客の多くはこの美術館を訪れるだろう。
シャガールはフランスで活動した画家の中でも超メジャーだし、日本でも非常に人気のある作家なので、学生たちも当然知っているものだと思っていたけれど、この画家の名前を知っていたのは16人のうち、1/3ぐらいだった。そういえば昨年もそんなもんだったような気がする。美術鑑賞というのは、鑑賞にあたって特に訓練は必要はなく、前提的な知識なく見て感覚的に楽しめるような作品もあるけれど、8割、9割がた、作品や作者についての既知のメタ情報に基づいて行われるように私は思っている。シャガールの絵は、幻想的な具象画である種の物語性があり、何が描かれているのかというのは読みとりやすいので、「有名な画家」という情報だけあれば、初めて見てたとしても楽しめるかもしれない。シャガールより知られていないマティスの場合、装飾的な面白さはあるが、抽象度は高い。前提知識なく、はじめて見た学生は面白いと思っただろうか、などと考える。明日行く、アンティーブのピカソ美術館所蔵のピカソの作品のほとんどは、ピカソがアフリカなどの民族芸術に関心をもっていた時期の作品なので、美術史的文脈やピカソの画家としてのスタイルの変遷を知ったうえでないと、面白さはわからないかもしれない。
団体予約のおかげで、さっと入場できた。しかし予約なしの行列も昨年ほどは長くなかった。シャガール美術館は入館した時点で、自由解散とした。私は20分ほど見たあと、敷地内のカフェでコーヒーを飲んで、美術館を出た。帰宅したのは18時ごろ。
夕飯はガレットだった。中にハムと卵が入っているもの。浴槽の修理の保険請求手続きについて、Annickと少々面倒な確認作業を行った。論文は進んでいない。パソコンの電源とバッテリーの調子がおかしくて、充電されない。かなり憂鬱。
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