ガイドがメディナの形成やモロッコ王国について説明したあと、フナ広場を南に下って、まず観光名所のひとつバヒア宮殿に向かった。入場料は100MAD。バヒア宮殿は19世紀後半のモロッコの宰相の邸宅だったそうだ。2023年9月にモロッコで大きな地震があり、この地震のせいで宮殿内の多くの部分が修復工事中だった。宮殿のなかは観光客でかなりの人手だった。ガイドの解説付きで各部屋を回る。タイル文様と精密な漆喰細工の壁面がすごい。ガイドの解説付きでひととおり見るのに1時間ほどかかった。
バヒア宮殿のあとは、ユダヤ人地区(といっても今はほとんどいないらしい)を歩き、16−17世紀にかけてのモロッコの王朝、サアード朝の墳墓群を見に行ったが、ツアー参加者のうち半数は歩き疲れたのか、この墳墓群は見ないで出口で待っていると言う。この墳墓群の見学に参加したのは私と母親と子供二人の親子連れ、それからおそらく50代の夫婦だった。最初にトイレに行ったがこのトイレがけっこうな行列で20分ぐらいかかる。それから墳墓を見るための入場の行列があった。ガイドは自分はなかには入ることができないといって、その場から離れてしまった。出口で待つということらしい。
ところがこの行列がなかなか進まない。しびれをきらして親子連れは20分ほど並んでいたものの墳墓を見学することなく出口から出ていった。私とフランス人夫婦は30分ほど並んだ。修復の関係か見ることができたのは、黄金王とよばれたアルマン・スール王の王廟のみ。壮麗な建築だったが、中に入ることはできず、外から2分ほど眺めて、写真を撮っただけである。墳墓の外に出ると、ガイドも墳墓を見なかったツアー客もいない。フランス人夫婦は散々ガイドの悪口を言っていたが、タクシーに乗ってどこかへ行った。私も歩いて宿に戻ることにした。宿までは30分ほどの距離がある。途中、スーパーで水と簡単な昼食を買って帰ろうと思ったが、旧市街にはスーパーぽい店がないのだ。旧市街は本当にカオスで、石畳の道や広場にバイクが走り回っていて、気を付けないと危険だ。喧噪と無秩序が町を支配している。一度宿に戻って1時間ほど休憩した。
新市街にある有名観光地、マジョレル庭園とあと時間があればその近くにあるイヴ・サン=ローラン美術館に行こうと思った。歩けば35分。新市街地に向かうバスに乗って行こうと思ったのだが、フナ広場を出たところにあるはずのバス停が見つからない。結局バス路線の道筋を15分ほど歩く。疲れて歩くのは嫌だったけど。市役所前でようやくバス停を発見して、バスに乗ってマジョレル庭園の近くまで行った。近くといってもそこから12分ほど歩かなければならない。これだったら最初から歩いた方が早かった。
マジョレル庭園に行くと入場者行列が出来ていた。チケット売り場には人がいない。入り口に立っていたスタッフに聞くと、「チケットはあっちで買えば」と指さされた方向には、標識が立っていてそこにQRコードが掲示されていた。オンラインでチケットを予約購入しろということらしい。やってみると、今日の入場はマジョレル庭園、ローラン美術館ともに満員で売り止めだった。疲れているなかやって来たのになんということだ。結局、マラケシュでも人気観光ポイントは事前にチケット予約するか、高い金を払ってガイドツアーを申し込むしかないと見ることは難しいのだ。
庭園横にあったカフェに入って、これからどうするか考える。今夜は昨夜見損ねたchez Aliの食事とショーを申し込んでいる。19時45分にメディナの外側にあるホテル前で待ち合わせだ。それまで2時間半、時間を潰さなくてはならない。せっかくだからメディナのなかのスークをぶらぶら見て回ることにした。バスでメディナの西の外れにあるクトゥビア塔を見て、それからスークに行き、宿で一休みしてから、chez Aliツアーの待ち合わせ場所に行くことに決めた。
Google mapで表示されたバス停まで歩くが、やはりバス停らしき表示は見当たらない。仕方ないので路線上を歩いていると、数人の現地人が道端に立っている。聞くとバスを待っているとのこと。なんとマラケシュの市内バスにはバス停標識がそもそもないところが多いことがわかった。利用者はなんとなくその辺と考える位置に立って、バスが来ると手を上げて「とまれ」と示すのだ。
バスは超満員だった。バスは4MAD、60円ほどと安いが、こんな感じでは明日、フナ広場の外から駅までバスで行くのはやめた方が良さそうだ。モロッコのタクシーはタチが悪くて料金交渉が必要なようだが、タクシーを使うしかないか。
クトゥビア塔の近くまで来て、ベンチで休んでいると通りがかりのモロッコ人から「こんにちは、日本人?」と声をかけられたが無視をする。マラケシュには観光客はウジャウジャいるが、そのほとんどは欧米人で、東アジア人は見当たらない。フランス人よりスペイン人の方が多いような印象。
疲れてはいたがスークを30分ほど巡って宿に帰る。一日、マラケシュを歩き回ってヘトヘト。現地ガイドにはサアード朝墳墓で置き去りにされるし。しかしこの街の面白さがだんだんわかってきた。観光客で溢れていて、浅草や京都のような感じでもあるが、その喧騒と無秩序が作り出す空気ははるかに濃厚で混沌としている。
人がごった返す旧市街メディナのなかの細い路地をバイクがけっこうなスピードで通り過ぎるので気が抜けない。
マラケシュの最大の見どころは何かと言えば、それはメディナのスーク(市場)のアナーキーな賑わいだろう。マラケシュはショッピングの町だ。旧市街の喧騒と無秩序は息苦しいほど濃厚でエネルギーに満ちている。ここではよっぽどタフでないと生きていけないような気がする。
宿で30分ほど休憩してから、chez Aliツアーの待ち合わせ場所に向かった。chez Aliは、マラケシュ市街から車で30分ぐらいかかるところにあった。広大なアラビアン・テーマパークみたいなところだった。中に入ると民族衣装を着たパフォーマーに迎えられる。ツアーの参加者は私を含めて10人ほど。私は料理のコースは羊の丸焼きを頼んでいた。料理のメニューごとに、テーブルが振り分けられ、私は一人で来ているロシア人男性、お母さんとロシア人の妻と一緒に来ているスペイン在住のブラジル人の3人組と同じテーブルだった。
羊の丸焼きは、出てきたときは「おっ!」と思ったが、味は単調だし、肉はパサパサ、脂の旨味も薄くて、あんまり美味しくなかった。まあツーリストにショー見せるレストランで出す料理だから、作り手の思い入れもないだろうし、味に期待しても仕方ない。
食事のあと、30メートル×400メートルくらいある馬場で、曲馬やダンスのショーが40分ほど。映画のセットのようなアラビアンナイト風空間のスケールはすごいが、照明が暗すぎて何をやってるかよく見えない。ショーの構成も工夫がない。
TripAdvisorのような旅行者のサイトでも低評価が多いが、料理、スペクタクルともにこの内容ではわざわざ見に行くこともないかなと。客も100人くらいで広大なレストランも観客席もガラガラ。
観光と演劇の取材を念頭においてツアーに申し込みしたが、chez Aliの食事とショーはこのままでは、先は長くないだろう。帰宅は深夜0時前になった。
一日、マラケシュを歩き回って地理感覚ができてみると、昨夜、よくぞスーツケースを転がしてメディナ(旧市街)の奥にあるリアド(リヤド)まで辿り着けたものだと思う。モロッコ到着後に無事e-simが開通して、Google mapを利用できたからこそだが。Google Mapがない時代だったら、どうやって辿り着けたのだろうか。
タクシーが、遠くに降ろしやがってと怒っていたが、今日歩いてみてあの場所にしか降ろせないことがわかった。リアドはメディナのスーク(市場街)の脇道にある。道案内で金をせびってきた兄ちゃんに「小銭がない」と言ってお金を渡さなかったが、あの兄ちゃんがいなければおそらくリアドに到達できてなかった。今思うと、50MADくらい払っても然るべきだった。
古都マラケシュに泊まるんだったら当然、メディナにあるリアドだろうと思って宿を取ったが、マラケシュ初心者にはハードルが高かった。素敵なリアドだけど。
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