平穏な日だった。
8時過ぎに起床する。朝は雨模様だが、午後には雨は上がった。
午前中は家にいた。学会の発表要旨執筆のための勉強をしたり、木曜午後および土曜のスケジュールを考えたり。昼飯前に学校事務所に寄って、午後に学生を連れてニース現代美術館に行く際に持っていく「予約票」を貰った。集団鑑賞の際の予約票、昨年はなかったような気がする。訪問約束の時間は午後4時になっていた。
昼飯は食堂。今日はカトリックの暦の上での「肉の火曜日」mardi gras、すなわちカーニバルの日だ。明日が「灰の水曜日」mercredi des cendresで、明日から復活祭までの46日間は四旬節という節制の時期となる。食堂ではカーニバルの日に食べる習慣があるというbugnesという揚げ菓子がデザートで出た。
飯を食って一度家に戻ってから、午後4時にガリバルディ広場のそばにあるニース現代美術館へ。ニース現代美術館と広場を挟んで向かいにはニース国立劇場がある。このハイブローな二つの施設のあいだの空間が、実はニースで最も危険そうな場所であることを私は昨年知った。二つの施設が開いている日はまだいいのだ。二施設の休館日である月曜の夕方から夜にかけては、この広場はニースの悪の巣窟のような邪悪な空間となる。昨年はそんなことは知らずに、国立劇場前で学生と待ち合わせしたのだが、酔っ払いっぽいやつや薬でらりってんのかという連中のグループがあちらこちらにいて、閉まっている劇場前で学生を待っていた俺をじろじろと見る。そのうちの一人、中年のおっさんがワインの瓶片手に寄ってきて、「おい、中国人、お前は犬を食うのか? 犬を食うのか?」と絡んできたときの不気味さ、怖さ。
昨日夕は、月曜で劇場が休館日だということを忘れてチケットを購入しに行ったのだが、やはり変な連中が何組か固まっていて、これはやばいとすぐに下に降りたのだった。
午後4時に現代美術館の入り口で学生と待ち合わせしていたが、その前に劇場に行って、今夜見るブルックの『バトルフィールド』のチケットを買った。チケットを購入するときに名前と電話番号を聞かれた。チケット半券には私の名前が印字されている。こんなことは昨年にはなかったように思う。
ニースはシャガール、マティス、ピカソ、コクトーなど20世紀フランスを代表する大画家が晩年を過ごした町で、今もここを活動の拠点する画家は多いようだ。美術館も現代作品ばかりを集めた現代美術館のほうが普通の美術館よりもよく知られている。ニキ・ド・サンファルの作品を多数収集しているほか、ニースゆかりの画家で青一色の作品で知られるイヴ・クラインの作品を見ることができる。ゆったりとした展示スペースで、美術空間としてのレイアウトがこの美術館は優れている。あとは屋上の庭園からのニースの眺望も素晴らしい。ニースには高層建築がないので、それほどの高さがない現代美術館屋上からも、広々と町の様子を見ることができる。
美術館のあとは、あさって国立劇場にまた行って、私と一緒に『バトルフィールド』とは別の作品を見に行く学生のチケットを購入し、ニース港の近くにあるノートルダム教会まで散歩。学生と別れたあとは旧市街のケバブ屋で観劇前の一人飯。アダナという牛と羊肉のミンチを棒状にした食べ物の定食を食べる。コーラ込みで17ユーロ。けっこうな値段だけれど、フランスで外食したらこんな感じだ。日本の牛丼屋は偉大だ。レジのお姉さんに「いくら?」って聞くと、「170ユーロ」と大阪のおばさんのようなボケギャグをかまして、ケラケラ笑っている。この店に入るのは初めてではない。前もこのお姉さんは同じようなギャグを言った。
ピーター・ブルックの『バトルフィールド』は世界ツアーで上演が続けられている作品で、2015年にパルコのプロデュースで新国立劇場でも上演があった。英語で仏語字幕の作品だった。日経の内田洋一さんの劇評があってほめていはいるけれど、
http://style.nikkei.com/article/DGXMZO94424580W5A121C1000000
実に地味で単調で枯れ果ててた退屈な作品だった。フランス人観客は大喝采だったが。あんなんでいいのか。脚本も演出もシンプルで素朴。内田さんの劇評はさっきさっと目を通したが、作品を見ただけでこれを褒めるひとがどんなふうに何を褒めるのか予想がついてしまう、そういう芝居だった。日本人のパーカッション奏者、土取利行が舞台上でジャンべを演奏する。劇を締めくくるジャンべの演奏だけはよかった。
帰りはレンタル自転車、velo bleuで。velo bleuを使いこなせれば、ニースの移動は格段に楽になる。劇場から家まで15分。歩いたらこの3倍くらいの時間がかかる。フランスの携帯電話番号が必要、クレカの決済がいまいち不安、一方通行と歩道走行禁止に慣れないなど問題はあるけれど、velo bleu申し込んでおいて本当によかった。
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