午前中はルーブル美術館に行こうと思っていた。それで実際にルーブル美術館まで行ったのだが、午前10時すぎに着くと入場待ちで長蛇の列ができている。15分ほど並んだが、こんなことをしていたら時間がもったいない、ヘミさんとの約束の時間が気になって絵も落ち着ついて見ることができないと思い、列を離脱。
メトロで移動し、ジベール・ジョゼフで本を見ることにした。ダリオ・フォ『滑稽聖史劇』イタリア語版、バカロレア試験対策用のセネカ『パエドラ』ラテン語仏語対訳本、セネカ『メデイア』 仏訳+解説、ダリオ・フォー『虎の歴史』仏訳、デュポン『ローマ 演劇』、ブシャール『農場のトム』、マヤコ フキー戯曲仏訳を購入した。
ヘミさんとの待ち合わせはメトロ4番線のシャトー・ドーの地上出口。ヘミさんのパリでの住居がこの近くにあるらしい。待ち合わせ時間5分くらい前に駅について、地上に出ると、メトロ出口付近には大量の黒人青年がたむろっている。正直なところ、やばそうで怖い感じがした。じっと立っていると彼らから声をかけられたらいやだなと思い、出口付近をうろうろする。3分遅れぐらいでヘミさんがやってきた。
「ここにたまっている、こいつら悪い奴らですか?」
「うん、悪い奴じゃない。このあたりは黒人用の美容室がたくさんあって、その客引きのためにメトロの出口で待ち構えているのよ。だから白人やアジア人はスルーで黒人女性にしか声をかけないよ」
とヘミさんが教えてくれた。後で観察してみると、確かに彼らは黒人女性がそばを通ったときに「マダム」と声をかけている。
「このあたりは黒人が多いし、ほかにもいろんな民族が入り混じっていて慣れないとぎょっとするかもしれないけれど、実は案外危なくない。日本の雑誌にも最近とりあげられていて、おしゃれでセンスのいい店も多い通りなのよ。それがわかってきたから日本人でこここらへんに住む人も増えてきた」
サン・ドニ門の近くにあるモロッコ料理屋に入った。昼のスピード・ランチが、前菜、クスクス、デザート、ミントティがついて9.8ユーロ。これは安い。ヘミさん曰く、ここらへんは物価が全般的に安いらしい。クスクスはスープをかけるタイプ。スープをかけるのがチュニジア風、数種類のスパイスとともに具材とクスクスを蒸し上げるのがモロッコ風だと思っていたがそういうわけではないみたいだ。クスクスの調理法がいくつもあるというだけの話のようだ。味はまあまあ。クスクスはどこで食べてもそこそこ美味しい。量はたっぷり。
ヘミさんにはフランスでの生活、ここしばらくの彼女の演劇活動について話を聞いた。そして昨年からヘミさんの夫がフランスを本拠地とすることになったので、今後、日仏でどうやって演劇活動と家庭生活を続けていくかという話など。3時に子供を迎えに行かなければならないというので、預けている場所まで一緒について行く。4歳と7歳の子供がヘミさんにはいて、3時に迎えに行ったのは4歳の男の子だ。人見知りで私とはあまり話をしてくれなかったけれど、実にかわいらしい子だった。
ヘミさんと別れてから、サン・ドニ界隈の道をぶらぶら歩く。こうした気取らない庶民的な町なみ、雑然としていてアナーキーな雰囲気の地区こそ、パリの魅力だと改めて思う。異質のものがとんがった雰囲気で交じり合っている。地区ごとに表情がまったく違うのが面白い。
ルーブル美術館へ。閉館が18時、その2時間前に行くと入場口は空いていて、すぐに入ることができた。ここ数年、新約聖書、聖者伝とギリシア・ローマ神話を題材にしたテクストをいくつか読んできたので、それにかかわる主題の絵画を重点的に見た。ルーブル美術館は10回目ぐらいだと思うが、そのコレクションの巨大さ、膨大な数の名画、そしてそれを収める建物の規模には毎回圧倒される。2時間だと駆け足で見て回るという感じになる。歩き回って疲れた。パリの巨大美術館は本当に疲れる。アプレイウスの『黄金のロバ』の「アモルとプシケ」の物語を読んでいるところなので、フランソワ・ジェラールのこの主題の有名な絵画を見つけた時はちょっと感動する。図像ではこれまでに見たことがあったけれど。ジェラールは、ウェヌスを嫉妬させるほどの美女、プシケーのイメージを裏切らない。マンテーニャの『聖セバスチャン』も本物を見ることができて満足。ざっと駆け足で見たが、18世紀のブーシェなどのロココ絵画に限らず、近代以前のヨーロッパ絵画に官能的な絵が多いことにあらためて気づく。
せっかくパリにいるのだから今日もスペクタクルを見に行くかとも思ったのだが、ルーブルで疲れてしまって気力がない。ショワジー大通りにある有名なフォーの店、フォー14で早めの夕食を取って、宿舎に帰った。フォー14、やはり家の近所の店のフォーより美味しかった。これでフランスで食べたかったものはほぼ食べた気がする。断食・節制の四旬節ダイエットどころか、とんでもないご当地B級グルメの滞在になってしまった。
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