2020年3月1日日曜日

2020/02/28 ニース研修第14日 マティス美術館とオペラ

金曜日で今日が授業最終日となる。
この学校にとある用件の進捗状況について問い合わせしたけれど、返事がないので事務所に行って担当者にあって確認してくれないかという依頼が知人から入った。

この件についてメールのやりとりをしていた担当者に聞くと、「私はメールを受け取ったけれど、実際にことを進めているのは別の人間なので、そちらに聞いて欲しい。私はメールを受け取り、その内容を伝えるだけなんで」と言う。業務について責任を追求されそうな事態になると、相手がこうした責任回避の言い訳をする、あるいは返答しないで放置される、というのはフランス人と仕事をした多くの人が経験することではないだろうか? 

もちろん日本でもこういうことはしばしばある。しかしなにか面倒な事態が起こったときにこういう応対をされるのはフランス人相手のほうがはるかに多いように感じる。
この担当者にしても気さくでいいやつなのだけれど、こういうことを平然と言う。私はこうした態度は、この学校のスタッフだけでなく、フランス人全体に蔓延する宿痾ではないかと思っている。そういうものだという前提でいたほうが、こちらの精神衛生上いい。
とりあえずメールのやりとりをしていた彼には、即座に今すぐ状況の進捗・停滞についてメールで返信するように要請した。彼のいう真の担当者はまだ出勤していなかったので、そのあとまた改めて事務室に行って会い、この用件について依頼者に状況説明するように伝えた。

午前の授業が終わるまえに、学校の宣伝用ビデオ映像の撮影に駆り出される。「なんでこの学校を選んだのか?」とかいくつかの質問に答えるというもの。拙いフランス語であまり面白くないことを撮影され、公開されるのは、正直勘弁して欲しいのだけれど、まあこれくらいの協力はしないとあかんかなと思ってつきあっている。それから学校の管理部門の担当者と面談で二週間の研修の総括を行った。おおむねこの学校の研修プログラムには満足しているし、スタッフと私の関係も良好なのだが、予定の変更などについて十分な説明がされないこと、問い合わせに対してレスポンスが遅いことがあること、などを不満として述べた。

学生には二週間の研修の受講・修了証明書が教室で授与される。その様子を写真に撮りたかったけれど、こうしたインタビューを受けているうちに授業が終わってしまった。

午後は私の企画で、ニースの高台にあるシミエ地区にバスで行き、マティス美術館、考古学博物館、シミエ修道院庭園を見に行った。参加者は13名。シミエ地区にはバスで行ったがニースのバスは運転が荒い。ぐねぐね道を20分ほど上るのだけれど、車に弱い学生はぐったりしていた。バスの運転手はかなりスピードを出すし、急発進、急停車で、乱暴にハンドルを切る。スムーズな運転をする気はさらさらないみたいだ。

マティス美術館、考古学博物館では、学生は無料になるが、二年前、三年前は、マティス美術館の受付が日本の大学の学生証を認めず、交渉が必要だった。「中国語のカードを見せられても、それが学生証かどうかわからない。だからだめだ」という言い方だった。他の美術館などでは日本の大学の学生証で問題になったことはない。だいたい学生の姿見れば、学生だと見当はつくわけだし。フランスでは担当者個人の裁量で融通が効くことが多いが、たまに杓子定規に規定をたてに高圧的にふるまう人もいる。
昨年はそうした戦いは回避できたように思う。今年も大丈夫だった。日本の大学の学生証でOK。国際学生証というものを2000円ぐらい出して作ればこうしたことは回避できるわけだが、マティス美術館のためだけにこんなものを作らせるのは、戦わずして降伏みたいでシャクだ。実際、交渉でなんとかなった実績があるわけだし。
マティス美術館は作品点数はそれほど多くないが、展示室の薄暗いオレンジ色の照明の加減が絶妙だ。

高台で今はニースの高級住宅街にあるシミエ地区には古代ローマ時代の遺跡がある。入り口には円形競技場跡、そして考古学博物館には広大な公衆浴場跡がある。『テルマエ・ロマエ』というマンガがあがるが、古代ローマは現代の日本人のように入浴を楽しむ文化があったのだ。この入浴文化はローマ帝国崩壊後、ヨーロッパでは失われてしまい、フランスは風呂にあんまり入らない文化の地域になってしまったわけだが。
そのせいか、日本人の目からすると興味深い古代ローマ公衆浴場遺跡は、フランス人の関心を引かないようで、いつも空いている。前は私はアジュールリングァの学校の遠足でシミエ地区に来ていて、そのときはマティス美術館とシミエ修道院庭だけ見て、考古学博物館はすぐそばにあり、無料にも関わらず素通りだった。柵の外から見える古代公衆浴場跡の景色が興味深かったので、その翌年から学校主催の遠足からシミエを外し、自主企画遠足としてシミエに行くようにした。

シミエ修道院はフランチェスコ会の修道院だ。修道院付属の教会と庭園には一般人も入ることができる。シミエ修道院付属の聖母被昇天教会は16世紀ぐらいの建築だったはずだ。天井の装飾画が素晴らしい。祭壇はバロック様式で、隔壁によって遮られ、一般人が入ることができる身廊から内陣の様子は見えにくくなっている。大きな教会ではないが、厳かで重厚な空間だ。修道院付属の庭園からはニースの町の東側を見渡すことができる。修道院庭園は聖書の楽園を模したものらしい。
地味な遠足企画だが、私はこのシミエ散策はとても好きだ。毎年行っているが飽きがない。

バスでニース旧市街まで降り、夕食はソッカ屋でニース名物のソッカの他、ニース名物のピサラディエールやブレットという野菜の入ったタルト、ファルシなどのおつまみっぽいものをみんなで分け合って食べた。ソッカはひよこ豆が材料の塩味のクレープみたいなもの。ソッカはニースに来たときは一度はニースに敬意を払う意味で食べることにしている。正直なところ、嫌いというわけではないが、それほど美味しいものだとは思わない。ニースに来たのでとりあえず食べるローカルフードだ。ブレットは日本語ではフダンソウというらしい。葉っぱを食べる。

夜はオペラを見に行った。演目はチャイコフスキーの《スペードの女王》。演出はオリヴィエ・ピィ。オペラ公演はこの研修を始めた6年前から毎年行っている。ニースオペラ座で毎年定期的に見に来る日本人団体客はわれわれのグループだけに違いない。学生は学生券で見る。最上階のサイドで若干見にくい場所だが、料金は5ユーロだ。オペラの学生券は本来なら、公演の48時間前までに劇場窓口に本人が出向き、学生証持参で購入という条件があるのだが、われわれの団体は劇場の教育プログラム責任者の裁量で事前にメールで予約して、チケットを確保してもらている。5年前に「日本から語学研修でニースに連れてきた学生にオペラを学生券で見せたいけれど、公演48時間前までに劇場窓口に行くことはできない。どうにかならないか?」とメールで問い合わせたら、担当者が便宜を図ってくれたのだ。

研修の疲れもあって、オペラ座に連れて行っても学生の多くは眠ってしまう。でも眠ってしまってもいいと思っている。海外に研修にやってきてオペラを体験し、あの空間の雰囲気を知るだけでもいい経験になると思う。オペラの集団での鑑賞は、帰りが深夜となり、しかもわれわれの研修はホームステイなので、別々の場所に帰らなくてはならないところが難点になる。ヨーロッパの都市の深夜は治安面で問題があるので、学生たちをバラバラに自由に帰らせることには不安がある。同じ方向のいくつかのグループに分けて、できるだけ男子学生が女子学生に付き添うかたちを考える。
研修での夜の外出、それも集団での外出はいつも悩ましいのだけれど、それでもやはり私としては、昼間の観光だけでなく、ヨーロッパの都市のスペクタクルの世界を学生たちに知ってもらいたいという思いがある。夜にレストランに飯を食べに行ったり、芝居やコンサートを楽しむというのは、海外に旅行すればやってしかるべき活動ではないかと私は考える。また実際に夜に遊びに行くことで、ヨーロッパの夜の町の危険というのも感じとって欲しいというのもある。
研修の夜プログラムは、面倒とやりたいの板挟みのなかでやっている。
今年は出発日前日夜に行く予定だったカーニバルがコロナウイルス不安で中止になり、ニース国立劇場の演劇公演やオペラ座でのコンサート公演が滞在中になかったので、グループ全体での夜外出は今回の《スペードの女王》だけだった。

開演が20時で、終演が23時半ごろだった。学生に付き添って家まで戻ったら午前1時を過ぎていた。ニースはなまじタクシーを使うほど広くはないため、市内の移動がかえって面倒なことがある。市内を走るタクシーの数が少なくて、呼んでもなかなかやって来ない。
私はvélobleuという市内の自転車レンタルサービスをしばしば使っている。事前登録とフランスの携帯電話番号が必要だが、月10ユーロで乗り放題となるサービスだ。トラムは深夜まで走っているが、夜は本数が少ないので、遠くに住む学生を送ったあとなどに、このレンタル自転車サービスを利用する。

オリヴィエ・ピィ演出の《スペードの女王》は、観客を敢えて混乱させるような演出上のしかけによって、最初のうちは人物関係が把握できなくてつらかったのだが、徐々に演出上の仕掛けが見えてきて引き込まれた。プーシキンの原作は読んでいたが、オペラ版を見たのはこれが初めてだった。オペラの概要も読んではいたけれど、ピィの仕掛けによって状況が混沌としていて最初はなにがなにかよくわからない。演出については観客からブーイングも飛んでいた。オペラ化による原作の改変(このオペラへの翻案の語法もとても興味深いものだった)、ピィの挑発的な演出によって、物語は原作よりはるかに複雑なものになっていた。

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