2020年3月9日月曜日

2020/03/08 ダブリン

ダブリン2日目。明日の朝にフランスに飛ぶのでダブリン観光の日は今日しかない。ダブリン観光の超定番といえるところを回ろうと思ったのだが、日曜は美術館・博物館の類の開館時間が遅い。そして閉館も概して早い。
フランス語のガイドブック、Guide du routard での評価を参照して回るところを探す。立ち寄りたい場所の多くは午前11時以降にしか開かない。とりあえずリフィー川の南側にあるセント・ステファンステーキ ・グリーンに行くことにした。単なる公園なんだがGuide du routard では高評価が付いていた。
移動にはレンタル自転車を利用した。ダブリンの観光ポイントを回るにはやはり便利だ。昨日レンタル登録手続きをしておいてよかった。

セント・ステファンズ・グリーンはまあ楽園的にのどかで綺麗でいいところではあった。ただ特筆すべき観光ポイントかというとそうでもない。Guide du routardは、レストランとホテルの評価はおおむね信頼できるのだけど、観光ポイントの評価は微妙だ。日本人とフランス人の観光の感覚の違いを感じることがしばしばある。

ナショナル・ギャラリーに行くことは決めていたので、ギャラリーが開館する11時ごろまで公園で40分ほど時間を潰した。ナショナル・ギャラリーは、Guide du routardで星3つの最高評価。展示作品が豊富で見応えがあった。アイルランドの画家以外にヨーロッパの大家の作品もかなりあった。スペインこバロック期の画家ムリーリョの《放蕩息子の譬え》の連作は特に興味深かったが、イエイツの弟、ジャック・イエイツの絵が特に気に入った。フォヴイスムの画家、ヴラマンク風のタッチで書かれた人物画など。イエイツの家は父親も画家だし、確か姉も画家だったはずだ。ジャックの絵はスライゴーのイエイツ記念館で、水彩とペンによるイラストが何点か展示してあっていい絵だなと思っていたが、ヴラマンク風の油絵は違った雰囲気だがとてよかった。表現主義的でムンクっぽい雰囲気もある。

朝飯はホテルでボリュームたっぷりのアイリッシュ朝食だったので昼飯は取らず、ナショナル・ギャラリーのあとは、アイルランド最大の教会である聖パトリック大聖堂に行った。日曜はミサがあるためか、大聖堂の一般開放時間が変則的だ。10時半で一旦閉まり、次に開くのが12時半から2時半の2時間になる。

聖パトリック教会は11世紀に建築が始まったとあったが、造りはあまりふるさを感じない。フランスのゴティック様式教会のようなゴテゴテ感があまりない。入場料が必要というのもフランスの教会と違うところだ。
実は聖パトリック大聖堂に着くまで、その名称からこの教会はカトリックだと思いこんでいた。ダブリンにあるもう一つの大きな教会、クライスト・チャーチがアイルランド国教会に属し、聖パトリック大聖堂はカトリックなのかと思っていたのだ。実際には聖パトリック大聖堂もアイルランド国教会、すなわちプロテスタントの教会だ。聖パトリック大聖堂のなかでググってみると、アイルランドはカトリックがマジョリティにもかかわらず、その首都ダブリンにはカトリックの司教座は「臨時」のものしか置かれていないことがわかった。

信者ではないが研究上の関心からカトリック贔屓の私はこうしたことを知ってしまうと、聖パトリック大聖堂のありがたみがとたんに薄れてしまった。

聖パトリック大聖堂のあとはトリニティ・カレッジ図書館に行った。ここは日曜は正午開館で午後4時半に閉まってしまう。ケルズの書で有名なところだが、ケルズの書の本物は展示されていなかった。ケルズの書や他の中世写本の挿絵については、パネル展示の部屋で詳しく解説されているが、原本はない。ケルズの書の複製は二階の「長部屋」に提示されていた。ケルズの書の本物は見られなかったけれど、二十万冊の書籍が書棚に収納されている長部屋の長大な空間は圧巻だった。両側の本棚にびっしりならぶ重厚な装丁の古書の威圧感がすごい。

トリニティ・カレッジを出るともう午後4時を過ぎていた。この時間から見られる場所は限られている。リフィー川沿いの繁華街、テンブル・バー地区にアイルランド・ロック博物館というのがあり、Routardで推していたのでそこに行くことにした。行ってみるとガイドツアーしかやっておらず、自由に見て回ることができないという。「ゆっくり説明してくれるんだったらわかると思うのだけど」と言うと、「大丈夫」ということなので申し込むことにした。ガイドツアーは約一時間ごとにある。ツアーで回ったのは、私以外はバンドをやっているというアメリカ人の4人組とフランス人老夫婦とその息子の3人、そして私の計8名だった。ツアーの時間は90分ほどだったが、ガイドが早口で半分くらいしかわからない。名調子で朗々と語るタイプの解説だった。フランス人老夫婦もよく理解できていない様子で、息子が適宜フランス語で説明していたが、情報量が多くて息子のフランス語訳も簡単なレジュメという感じ。アメリカ人4人はガイドツアーを楽しんでいた様子だったが、私はかなりつらい90分だった。ツアーが終わった後、フランス人老夫婦にフランス語で話しかけると、向こうの表情が明るくなり、生き返ったような感じに見えた。
またアイルランドに来たいので、英語はもっとちゃんと学習しておきたい。とりあえず観光旅行での最低限のコミュニケーションはなんとかなるのだけれど、もうすこし滞在を深く楽しめるようになりたいものだ。

ロック博物館のツアーが終わったのが夕方6時。あと近くで開いているのは国立の蝋人形館だ。蝋人形館はRoutardでは紹介されていなかったが、Google mapでひっかかった。夜10時まで開いている。蝋人形館は東京にもパリにもあるがこれまでわざわざ入ったことはなかった。なんとなく興味はあったのだが

アイルランドの有名人の蝋人形と2ショット写真を撮れるというのは案外面白いのではないかと思った。蝋人形館はいくつかのセクションにわかれていて、アイルランド有名人セクションではシン・リジィのフィル・リノット(ロック博物館でもフィル・リノットについては激推ししていた。アイルランドのロック界の始祖のような扱いだ)、ヴァン・モリソン(これもアイルランドでは尊敬されているミュージシャンだ)、オスカー・ワイルドと一緒に写真を取った。ジョイスとベケットもいたが、ジョイスは位置的に2ショットが難しく、ベケットは立像で背が高すぎて2ショット撮影ができなかったのだ。
あとローマ教皇のフランシスコと写真を撮った。楽しいが中年男が一人でこんなことをやっているのは虚しくもある。
蝋人形館の他のセクションでは恐怖コーナーもあって、これは実に悪趣味でよくでてきた。Routardの取材者にはあえて記述する価値なしとされた博物館だが、私は案外楽しむことができた。

夜はアイルランドっぽいものを食べたかった。Routardをめくると近くにダブリンで有名なフィッシュ&チップスの店があることがわかり、そこに食べに行った。カウンターでまず注文してお金を払って席に座ると、紙の容器に入ったものが出てくるというレストランというよりは軽食スナックの店だった。スモークしたたらのフィッシュ&チップスを注文した。衣がさくっとしていてうまい。魚の塩味も絶妙だ。B級ローカルフードとしてはなかなかのもの。しかしこれが値段が12ユーロする。
12ユーロ出せば、日本だと四谷のたけだでこれよりはるかにうまいものが食べられる、ということを考えてしまった。もちろんローカルB級を食べるということ自体、意味があることなんだが、なまじたけだに「サーモンフライ定食」という似た料理があるのでつい比べてしまう。

川沿いの繁華街のテンブル・バー地域には、ミュージックパブも密集している。せっかくダブリンに来たのだからアイリッシュ・トラッドのライブを聞きたいなと思ったのだけど、ライブが始まるのは午後9時過ぎだ。飯を食い終わっても2時間ぐらいどこかで時間をつぶさなくてはならない。
一度ホテルの部屋に戻ることにした。しかしホテルに戻ると、外はけっこう寒いのでまたテンプル・バー地区に音楽を聞くために戻るのが億劫になってしまう。ホテルのバーでもライブをやっている。テンプル・バー地区まで行くのが面倒になって、ホテルのバーにライブを聞きに行くことにした。

ホテルのバーのショーは夜9時過ぎから開始だった。私がバーに入ったのは9時15分ごろ。アイリッシュ・トラッドではなくて、アコースティック・ギターの弾き語りだった。時折観客にリクエストを聞いて、それを歌う。歌は上手だったけれど、こういう音楽は私は別に聞きたくない。そもそもホテルのバーなんてまともに音楽を聞きたいような観光客が行くところではない。これはテンプル・バーでも店を選ばないとそうかもしれないが。サイモン・アンド・ガーファンクルとかU2とかボブ・デュランとかがたらたら歌われる。よっぱらいたちが陽気に騒ぐなかで、一人でアイスティを注文して、こんな音楽を聞いているのはけっこうきついものがあって、一時間ほどでバーを出た。
やはりこんなことで手を抜いてはだめだ。まあこの間の悪さというかいたたまれなさというのも一人旅の醍醐味と言えなくもない。
明日の朝ダブリンを発ち、グルノーブルに向かう。




0 件のコメント:

コメントを投稿