2020年3月15日日曜日

2020/03/14 パリ

一ヶ月にわたるフランス・アイルランド滞在の最終日だ。昨日の午後に100人以上の集会が禁止されてしまったので、今日の午後に見る予定だった公演がなくなってしまった。私が予約した公演だけでなく、ほとんどの公演が昨日午後の通達によって、なくなってしまった。演劇などのスペクタルだけではない。美術館、博物館も、エッフェル塔などの観光名所も封鎖された。国立図書館も閉館だ。

ホテルのチェックアウトは朝10時だが、飛行機は夜9時過ぎだ。昼飯を食べた後、芝居を見て、夕方になったらタクシーで空港に行って早めにチェックインしようと思っていたのだが、午後の時間が空白になってしまった。

昼はパリ在住で俳優・ダンサーとして活動している外間結香さんと13区のフォー屋で飯を食べる約束をしていた。このフォー屋はこの近所に住む彼女行きつけの店で、私はパリで彼女に会うときはこの店でという感じになっている。牛肉薄切り肉をしゃぶしゃぶのように汁に浸して食べるフォーが名物で、彼女も私もいつもこれを頼んでいる。
話はやはりコロナウイルスがもたらす影響(彼女の仕事もキャンセルになった)と見た演劇や映画についていろいろ。フォー屋の後はカフェで1時間ほど話をした。

彼女と別れた後はどこに行くあてもない。店は空いているので、本屋でも寄って時間を潰そうかと思い、とりあえずイタリア広場からゴブラン通りを下った。ゴブラン通りはプレヴェールの「日曜」という詩に出てくる。この詩は教材として授業で使うので通りの写真でも撮っておこうかと思ったのだ。するとゴブラン通りに大量の警察官が待機していて道を塞いでいる。後で分かったのだが、ジレ・ジョーヌ(黄色いチョッキ)の大規模なデモがあったようだ。
この辺りに尿意を催して、どうにも我慢しがたい状況に陥った。あたりに万人に開放されたトイレはない。ホテルまで一旦戻ろうかと思ったがとうてい持ちそうにない。近くのカフェに入り、カフェとトイレを注文した。カフェは1ユーロ20サンチームだった。
トイレから出たあとカフェでGoogleマップを調べてみるとすぐ近くに映画館が二軒あり、どちらも営業していることがわかった。10分後ぐらいに『聖体拝領』というポーランド/フランス映画の上映がそばの映画館であることがわかり、観客の評価も高いのでこれをら見ることにした。ポーランドの田舎の教会で少年院を出た不良少年が司祭代理を務める羽目になる話。司祭という権威を背景に、因習に囚われない少年司祭が村社会の闇に切り込んでいく。信仰とは何かという問いかけが少年と村人たちの関係から浮かび上がる。渋い映画だった。
映画を見たあと、スーツケースを預けていたホテルに戻るとちょうど良い時間になっていた。ホテルのフロントに空港行きのタクシーを呼んでもらう。タクシーの運転手が優しそうなアジア系のおじさんだったのでちょっとホッとする。
土曜の夕方でいつもは渋滞する空港までの道は空いていた。

2/14(金)に日本を出て3/1(日)まで学生たちとニースに滞在。その後3/1(日)から3/9(月)までがアイルランド、3/9(月)から11(水)がグルノーブル、3/11(水)から3/14(土)までがパリ。

長い一ヶ月だった。実際の滞在期間よりさらに長く感じた。フランスに一ヶ月前に入国したときは、フランスではコロナウイルス感染は確認されておらず、日本人がこの感染症と結びついた差別の対象になるのではないかと思っていた。私にはなかったのだが、ニース 研修中には学生の中には「コロナ!」と罵声を浴びた者がいた。それが一ヶ月後の今はコロナウイルス感染についてはフランスの方が日本よりはるかに緊迫した状況になっていて、フランスからの帰国者がコロナ差別の標的になっているような状況のようだ。

ニースにいた頃は2週目には北イタリアでの大量感染者の確認があり、こちらのテレビニュースでの緊張感が増した感じはあったのだが、それでも日本でエスカレートしていくコロナ騒動は別世界の出来事だった。

ニース研修では例年2-3名は体調を崩し、病院に連れて行くことが多いのだが、今年は幸い発熱などがあっ参加者は出なかった。アジア人で発熱となると相当警戒されることを覚悟しなくてはならないだろうと思っていたのでほっとした。
フランスでのコロナウイルス感染が一気に深刻な状況になったのは私がアイルランドに滞在している9日間のあいだだった。

海外で一ヶ月ぐらい過ごしていると、ずっと絶好調でいるのはけっこう難しい。しかし今回の旅については体調を崩したら大変面倒なことになるのは間違いないので、のほほんと楽しく旅を楽しみつつも、体調管理にはそれはそれは神経を使った。強迫観念のように風邪ひいたらあかん、と思い続けていたのだ。早寝早起きの健康的な規則正しいまともな生活を送った一ヶ月だった。よく歩いて運動もした。

帰国後は2週間は大人しく引きこもるつもりだが、体調を崩すことなく一ヶ月を過ごせてホッとしている。こんなに一ヶ月を長く感じたことはない。コロナウイルスを巡る状況の急変だけでなく、いろいろなものを見て、いろいろなことを経験した密度の高い一ヶ月だった。

美味しいものをこんなに食べ続ける旅になったのは想定外だった。
断食の時期の四旬節に入ることもあり、ダイエットも兼ねた節制の旅になるはずだったのだが。


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