2020年3月11日水曜日

2020/03/10 グルノーブル

グルノーブル二日目。ホテルの向かいにコインランドリーがあったので、朝食の時間を利用して洗濯した。
明日は午前中の列車でパリに戻るので、グルノーブルを観光できるのは今日だけだ。ところが火曜日の今日はグルノーブルのほとんどの美術館・博物館は休館だった。ドキュメンタリー映画「大いなる沈黙へ グランド・シャルトルーズ修道院」(2006年)が近くになるのだけれど、一般人が見学できるグラント・シャルトルーズ博物館もシーズンオフで休みだ。

市内で開いている観光ポイントは教会ぐらいしかない。とりあえずグルノーブル大聖堂に行ってみた。町の他の建物と一体化していて、外観は大聖堂にはみえない。10世紀から建築がはじまったとあったが、古い部分はごく一部なのだろう。内部もふるさを感じなかった。
大聖堂に隣接して旧司教区博物館があってここは開いていた。しかも無料。古代ローマ時代に遡るこの地域の歴史を示す博物館だが、特別展でヴィヴィアン・マイヤーというアメリカの女性写真家の写真展をやっていたのでそれも見た。ベビーシッターとして働きながら、街角の人々のポートレイトを大量に撮ったアマチュア写真家で、その死後にその写真が世に知られるようになったという。彼女についてはこのページに詳しい。
https://www.artpedia.asia/vivian-maier/

この博物館を見てしまうと、もう他に開いている美術館/博物館はない。グーグルマップで「観光ポイント」にあげられていたヴィル公園に行ってみたが、文字通り単なる「町(ville)の公園」で特にみるべきものはない。今日は小雨も降る寒い日だったので、屋根のあるところに行きたかった。屋根があって、座れて、時間を潰せるとなると教会しかない。大聖堂と同じくらい古いサン=アンドレ参事会教会、17世紀の建築のサン=ルイ教会を巡った。信者の方が数名座って祈っているだけで、他に誰もいない。いったい観光客は今日、どこに行っているのだろう?

昼ごはんはパリ在住のソプラノ歌手、高橋美千子さんと取る約束をしていた。彼女は今日と明日、グルノーブルの劇場での公演に出演する。今回私がグルノーブルに寄ったのは、彼女が出演するバンジャマン・ラザール演出『エプタメロン』を見るためだった。
昼食のレストランは高橋さんが予約してくれていた。グーグルマップを見ると「高級」とあるフランス料理屋だ。19世紀に建築された邸宅を改築した洒落たレストランだった。こういう店は私ひとりではまず入ることはない。さすがクラシックの歌手となるとこういう洒落た店を知っているだなあと感心する。

ランチのコースを頼んだ。夜はかなり高そうだが、ランチのコースは町のブラスリーとそんなに変わらない。店の空間にふさわしい素晴らしい料理だった。ふだんは私はデザートは取らないのだけれど、今回はデザートを取って正解だった。レモンケーキなのだけれど、酸味と甘みのバランスが絶妙だ。生姜が入っているというソースが複雑で繊細な味わいを作り出している。ウエイターのサービスもとても感じがいい。会話を楽しみながら、素敵な空間で、おいしい料理を食べるという至福の時間を過ごすことができた。

昼食後、高橋さんと別れ、グルノーブル名物のロープウェイに乘って山上の要塞に行く。要塞からの眺めは素晴らしかったのだが、寒かった。観光客の姿はわたしのほか3人ほど。要塞付近のレストランや博物館などもことごとく休業だった。風がつよくてロープウェイのゴンドラがゆらゆら揺れるのが怖かった。

要塞から降りて、一度ホテルに戻る。
夕食はケバブ。グーグルマップで「グルノーブルで一番のケバブ」の評があるケバブ屋が、『エプタメロン』公演会場の近くにあったのでそこで食べた。店員が「シェイシェ」と言ったので、「私は日本人だからしぇーしぇーではなく、ありがとーと言ってくれ」と言うと「おれ、日本のマンガの大ファンなんだ。ドラゴンボールとか」といくつかのマンガやアニメのタイトルを挙げる。日本のマンガ・アニメはインターナショナルだ。
ケバブ屋の兄ちゃんはトルコ人だった。ケバブはグーグルマップの評通り、ボリューム満点で美味しかった。

『エプタメロン』は、語りの外枠をマドリガルの合唱に置き換え、音楽の枠組みのなかで『エプタメロン』のなかの挿話だけでなく、語り手の個人的な物語、『デカメロン』の挿話などが、語り・演じられるというスペクタクルだった。音楽劇としてはかなりユニークなものだ。合唱の歌手たちも俳優として挿話のなかに入ってくる。しかしその介入のしかたはギリシア悲劇のコロスとも異なる。
バラバラの挿話が、16世紀末から17世紀はじめのイタリア歌曲によって統一感のある世界を作り出している。舞台上で使われる映像も挿話と音楽と象徴的に結びつく。独立性と密度の高い挿話が音楽によって総合され一つの世界を作り出していく構造はフェリーニの映画も連想させるものだった。同じ手法で、オウィディウスの『変身物語』やヤコブス・ヴォラジネの『黄金伝説』などもできそうな気がする。
高橋美千子さんの使い方があざとい。天才的。彼女がフィーチャーされるシーケンスは、その演出的仕掛けゆえに、フランス人観客にはとりわけショッキングで印象的なものになっていた。

終演後、初日打ち上げに30分ほどおじゃなして、バンジャマン・ラザールと少し話をした。2ショット写真も撮った。

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